第23回日本助産学会 学術集会
スポンサードセミナー 骨盤ケアで改善! PART2

妊娠・分娩・産褥・授乳・新生児期のトラブル

目次

座 長
大阪府立大学看護学部教授 末原 紀美代

座長・演者経歴

演題1 妊産婦・医師から信頼を得るためのキーワード「骨盤ケア」
NPO 法人 母子整体研究会代表理事 渡部 信子

演題2 心寄せ合い安全な分娩を実現
医療法人 玲聖会 貴子ウィメンズクリニック 水谷 紀子

演題3 妊娠初期からの骨盤ケアの実際
お茶畑助産院 高橋 美穂

演題3 妊娠初期からの骨盤ケアの実際

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髙橋 美穂

お茶畑助産院院長 髙橋 美穂

1.トコちゃんベルトとの出会い

私は助産師になって7年目に縁あってお茶処である静岡県の袋井市に嫁いだ。助産院で働きたかった私は、2005 年9 月から3年間、40 キロ離れた藤枝第一助産院でお世話になった。就職当時スタッフは、飯塚まさ子院長と、私ともう一人の助産師。その前年に院長が母子整体研究会の研修を受け、骨盤ケアを導入した。院長が主に妊婦健診、助産師二人で産後のケアを担当。健診時に恥骨痛や腰痛を訴えた妊婦に、院長は骨盤輪固定の必要性を説明し、私ともう一人の助産師がトコちゃんベルトの着用方法を指導することになったが、私は扱ったことがなく、見よう見真似で指導していた。

2.妊娠初期からの骨盤ケアの導入

着用指導をしていると「痛みが取れて楽になりました」という声を多く聞いた。けれど、中には「よくわかりません。ベルトはいりません」と言われる方もいた。お腹の形を見て、こちらとしてはベルトをした方がいいと思っても、妊婦が不要だと思う時は、妊婦の意見を尊重し経過を見ていたが、結局「腰痛がひどくなってきたので、ベルトをしたい」という経過をたどる傾向にあった。着用位置が微妙に違うのだろうか?など自分の技術不足を感じていた矢先、院長が「トコちゃんベルトは腰痛予防だけでなく、逆子や回旋異常の予防にもなるらしいから、みんなで勉強しよう」と提案。2006 年7 月、全員で母子整体研究会の研修を受けることになった。

研修は4日間朝から晩までみっちり。三十代半ばの私は付いていくのがやっとだったが、充実した内容で学びはとても多く、助産技術の可能性の広がりに期待が膨らんだ。研修の中で、骨盤ケアは骨盤輪固定法だけではなく、身体のゆがみに応じて、操体法などによるセルフケアや、テイクケアがあることを学んだ。

また、骨盤の緩みは妊娠と同時に始まると知り驚いた。妊娠期のマイナートラブルを予防するためには、妊娠初期から骨盤ケアをすべきであり、今までのように痛みが生じてからでは遅いということがわかった。

早速、妊娠初期から骨盤ケアを勧めることに決まった。とはいうものの、妊娠初期には何の症状もない人が多く「腰痛も恥骨痛もないのに果たして受け入れてもらえるのだろうか?」「骨盤ケアを押し付けられていると取られないだろうか?」と一抹の不安はあった。
それでも妊娠初期から骨盤ケアは必要なんだと真摯な気持ちで伝えれば、きっとわかってもらえるとの思いで、とにかく始めてみた。ところが妊婦の反応は「私達が予想していた不安は何だったの?」と思えるほどだった。

3.不定愁訴が減った

藤枝第一助産院で2008 年の7 月から11 月までに20 名の同意が得られた妊婦に対してアンケートを実施した。まず、頻尿・便秘・下腹部の違和感といった不定愁訴が消失し、妊婦から「妊娠期が快適に過ごせる」「骨盤ケアをしてもらえてよかった」という反響が返ってきた。通常これらの泌尿器系などの症状を妊婦が訴えても「仕方ないわね。そのうち良くなるわよ」と受け流したり、「辛いわね」と共感するにとどまることが多いのではないだろうか? 実際、骨盤ケアを行うまでは、教科書的な方法以外の対応ができなかった。

けれど、妊婦にとってはこれらの症状は重大な問題。仕事中や外出中、トイレが始終気になる。食事内容を改善したり、水分をたくさん摂取したり、腹部マッサージをしても便秘が解消されず、何となく下腹部が張った感じで不快感がある。便秘かお腹が張っているのかわからず不安。赤ちゃんを授かったことは嬉しいけど、妊娠を後悔した気持ちになることも。また、妊娠期はたくさん散歩をするようにと指導されるが「トイレが気になるので長時間の散歩は無理です」「お腹が張っているのかと気になって…お散歩できませんでした」といった具合である。通常の日常生活もままならないのに、散歩は無理である。

4.散歩できる身体作り

妊娠中はよく身体を動かし、体力や筋力をつけるために散歩や妊婦体操をすることは昔から良いとされているが、現代人の身体は予想以上に緩みゆがんでおり、スタスタ歩くことさえできない妊婦が多い。

ところが、骨盤ケアをすることでこれらの症状が消失し、トイレを気にしなくても良くなり、十分に散歩をすることが可能になった。妊娠初期から骨盤ケアをしたことで、妊娠早期より日常生活が快適に、活発に過ごすことができるのみならず、不定愁訴が消失し、マイナートラブルが予防でき、妊娠を前向きにとらえ、自分の身体能力に自信をつけることにもつながった。

5.助産師に対する信頼感

何よりもどんな小さな訴えも、聞き流されることなく、解決策を見出してもらえたという経験は、助産師への信頼感が深まる。たとえ丁寧にやさしく声かけたとしても、訴えを受け流されてしまった妊婦は、小さな悩みは相談しなくなる。しかし、私達が「頻尿はないですか?」「夜中は起きることなく眠れていますか?」などと聞くようになると「実は、辛かったんです」とほとんどの妊婦が答える。助産師がどんな小さな悩みでも訴えて欲しいと思っても、妊婦は遠慮して話さないこともたくさんあり、本当はこんなに色々な悩みや不安を抱えていたのだと、改めて気づかされた。

このような結果が得られたことにより、2006 年10 月から全妊婦に対して妊娠初期(8週前後)から骨盤ケアをスタンダードケアとして導入することにスタッフ会議で決まった。

6.GS の形状変化

妊娠初期に骨盤ケアを行うことで、不定愁訴が消失するだけではなく、GS の形状が変化することがわかった。

図1 妊娠8週のGSの型(トコちゃんベルト着用前)
図2 トコちゃんベルト着用後のGSの変化-1
図3 トコちゃんベルト着用後のGSの変化-2

骨盤ケアを行う前の8週前後にエコーでGS をみると、細ナス型・ナス型・楕円型の形状を示すことが多かったが、骨盤ケア後の10 週前後にはGS が丸くなることが確認できた。丸いGS の中の胎児は四肢を活発に動かす様子が観察でき、胎児にとって境がよく、姿勢にもよい影響を及ばすと推測される。

7.妊娠高血圧症候群の予防は妊娠初期から

2005 年11 月、日本助産師会関東甲信越静ブロック研修会で、浜松医科大学産婦人科教授の金山先生が「妊娠高血圧症候群を予防するには、骨盤内の血液循環を改善することが大切。特に、胎盤の原型が完成する16 週までの血液循環が良いことが望ましい」と講演された。このことからも、妊娠初期から骨盤ケアを導入することが大切であると、近年ますます考えるようになった。

8.骨盤ケアの実際

骨盤ケアは、まずヒップサイズの計測。立位と骨盤高位で計測し、その差で骨盤の緩みの程度をみる。骨盤の緩みの程度がわかったら、妊娠期の骨盤が緩むメカニズムをわかりやすく説明し、不快症状などの自覚症状の有無を聞き、操体法を行ってゆがみを少し整えたうえで、トコちゃんベルトを巻く。ゆがみや腰痛が強い場合などはテイクケアを行う。
ベルトを巻く位置や巻き方は骨盤の形状により個人差があるため、妊婦に合う着用方法を見つけ出し、自分でベルトを巻けるように指導。2~3日ベルトを貸し出し、自宅に帰ってもベルトを巻いて過ごしていただく。後日再来院時、巻き方が正しいか、ベルトが合っているか、操体法が実施できているかを確認。その後は、妊婦健診毎にベルトの着用方法が正しいか、不具合はないか確認していく。

図4 ヒップサイズの測定

陣痛発来時もベルトは着用したまま過ごしてもらう。来院後、可能ならば間歇時に操体法を行い、分娩準備の段階でゴムチューブに巻き替える。児娩出・胎盤娩出はゴムチューブを巻いたままで行い、骨盤がゆがまないようにしておく。児娩出時はフリースタイルであるが、胎盤娩出は仰臥位で骨盤高位をとる。

図5 お手製ビーズクッション

この時、直径30センチくらいの丸型の洗濯ネットに2/3 程度ビーズを入れたクッションを用いているが、このお手製クッションは長時間骨盤高位をとっても苦痛が少ないと好評。胎盤娩出後は、骨盤高位のままパットを交換し、産後2 時間値までそのままで過ごす。その間、足指回しを実施。2 時間値の出血の状況を判断した上で骨盤高位をやめ、ゴムチューブからトコちゃんベルトに交換する。

この時、骨盤ゆらゆらを実施。初回歩行時は必ず助産師が付き添い、トイレの時にもベルトを巻いたまま排尿。自室に戻ってからベルトを巻きなおす。産後は、毎日子宮収縮観察時にベルトの着用状況を観察。必要時、テイクケアを実施。児は出生直後から丸々抱っこやCの字の寝かせ方を実施し、ゆがみ防止に努める。

9.搬送事例の減少

妊娠初期から骨盤ケアを行うことで、妊婦は妊娠期をセルフケアできるようになるため、ほとんど手がかからなくなった。むしろ、他施設にかかっている妊婦が、腰痛や逆子などのため施術希望で来院されると、時間がかかり大変である。また、骨盤ケアを行うことで、分娩時間が短縮、出血量が100cc 以下のケースが増えた。

何より、微弱陣痛・遷延分娩、妊娠高血圧症候群が減少したことにより、搬送件数が2003 年から2006 年の4 年間では平均年間10.1%だったが、2007 年から2008 年は平均年間5.45%に半減した。これは、妊娠初期からケアを開始した成果と考えられる。

10.お茶畑助産院開業

藤枝第一助産院で2年勤務した頃、とりあえずと思って出張専門の開業届けを出した。出したのと同時に自分自身が妊娠。数ヵ月後、近所の妊婦から分娩依頼があり、自身の出産までは藤枝第一助産院で勤務し、産後5 ヶ月で開業初の分娩介助をすることになった。

当院も藤枝第一助産院同様、妊娠初期より骨盤ケアをスタンダードケアとして行い、お産の依頼を受けた時点で骨盤ケアについて説明・実施している。

私が子育て中ということもあり、1から2 ヶ月に1 件というペースでお産を受けており、妊婦健診は1 時間以上かけてゆっくり妊婦の話を聞くことができる。「上の子が男の子でしょ。すごくやんちゃなので、悪さするとつい走って追いかけてしまう。幼稚園の他のママから妊婦なのに身軽に走っているって驚かれました。これしてると走れちゃうんですよね」「三人目の妊娠で自分の年齢も若くないから大変だと思っていたのに、今までの妊娠生活の中で一番快適で身体が楽に過ごせた」「立ち仕事なので、必ずベルトしています。一度、ベルトしていなかった日、午後になると辛かった。なので、手放せません。お産の前日まで働いていました」などなど「骨盤ケアとの出会えてよかった」と語り合い、会話が弾む。

開業当初、産婦は年齢も若く経験も少ない私に対して多少なりとも不安を抱いていたと思うが、骨盤ケアにより快適に妊娠生活を送れるようになったことで、産婦から信頼感を得やすくなりコミュニケーションを取りやすくなったと感じた。助産師に対する信頼感が深まることで、お産で身を任せてもよいと思えるのではないだろうか。

図6 さらしによる骨盤輪固定 アメジスト 直後パット トコ式

当院でも分娩時の骨盤ケアは、藤枝第一助産院と同様に行い、胎盤娩出後は、アメジストの直後パット トコ式を使用している。1/4 幅の晒しがセットされており、この晒で骨盤輪をしっかり固定する。このセットだと、骨盤ケアの研修を受けていない助産師と一緒に分娩介助する場合でも、簡便に着用できるので重宝している。

当院においても、分娩時の出血量が少なく、分娩所要時間が短いケースが多い印象だ。分娩件数が少ないので参考にはならないかもしれないが、現在までの母体搬送件数は0件。また、助産院や自宅出産を希望している妊婦にとって、産みたい場所でお産できることはとても重要であり、助産師にとっても、希望にかなった安楽なお産の手伝いができることは助産師冥利につきる。

11.広がる骨盤ケアの輪

骨盤ケアの良さを実感した妊婦や産婦は、友人や知人にも骨盤ケアを勧める。時折「実母が腰痛で」と実母や夫の骨盤ケアを依頼されることもある。次第に口コミで「骨盤ケアをして欲しい」と他院で出産される妊婦さんや産後のママから依頼が来るようになった。

中には前回の分娩後から子宮脱になった20 代の初産婦が2人いた。2人とも分娩時に促進剤やクリステレルやいきむお産を経験していた。

「産後に何か違和感があると言ったけど、そのうち良くなると言われ見てももらえなかった。退院診察の時に子宮が出ていることがわかって大騒ぎになった。誰に相談したらいいのかわからなかった」「今回妊娠してまだ3 ヶ月なのに、くしゃみをしただけで子宮が出てきた。こんな身体だと切迫早産になりますよね。上の子がまだ小さいから入院したくない」と語っていた。

彼女達は第2 子妊娠初期から骨盤ケアをしているため、現在快適に過ごせている。しかし、もし前回の産後直後からでも骨盤ケアをしていれば、子宮脱にはならずに済んだのではないかと思う。こうした話を聞くにつれ、妊娠初期から骨盤ケアをする施設が増えて欲しいと思う。

12.母乳育児と骨盤ケア

お茶畑助産院では、出産した母親達と年に2 回お茶会をしている。その時に、児がゆがみなく育っているか、母乳育児はどうかなど話を聞く。頻回授乳が大変という話は聞くが、母乳育児が困難・育てにくいという話は聞かない。妊娠中からの骨盤ケアをすることで、母子共に産後のゆがみが少なく、その後の育てやすさにつながっていると考える。

保健センターの依頼で一ヶ月訪問をした際に出会う母子は、母子共にゆがんでおり、おっぱいトラブルを抱えている方が多い。しかし、一人当たり40 分の保健指導では到底骨盤ケアの話をする時間はなく、簡単に紹介する程度にとどまってしまう。妊娠初期から骨盤ケアをしているケースと、全然していないケースでは、育児のスタートが全然違う。

13.妊娠前に伝えたい

図7 1か月検診で赤ちゃんの頭のゆがみチェック

もっと多くの妊婦に骨盤ケアの大切さを伝えたいと考えるようになり、始めた活動が子育て支援センターでの「助産師と語る会」だ。月1 回10~15 人、0~2歳児を育てている母親に、骨盤ケアや赤ちゃんの抱き方や寝かせ方などの話をする。「この子を産む前に知りたかった」「頭がゆがんでいるとわかっていたけど、誰に聞いたらいいのかわからなかった」と皆口を揃えて言う。

「次のお子さんを授かったらすぐに骨盤ケアを始めましょう」と話すものの「妊娠初期から骨盤ケアさえしていれば…」と悲しい気持ちになる。「地域に助産師がいます。妊娠・出産・育児のサポーターは助産師です」と伝えていきたい。

14.自分でも実感

2006 年7 月、妊娠8 週になった時、経腹エコーで胎児を見ようとしたが見えず、骨盤高位にしたところ胎児を確認できた。私自身も骨盤の緩みが生じ、子宮下垂気味であることに気が付いた。そこで、トコちゃんベルトⅡの着用を開始した。当初、まだ上手くベルトを着用できなかったが、研修を受けてからは徐々に上手くなり、中期頃には一日中巻き直すことなく快適に過ごせるようになった。

しかし次第に、恥骨痛と腰痛が少し起きてきたため、晒しとベルトでダブル固定をしたところ、妊娠34 週まで分娩介助も十分にできた。

産後5 ヶ月の時の開業第一号の分娩介助時にも、自身の体調に不安を抱くことなく仕事に専念することができた。働いている妊婦には初期からの骨盤ケアは不可欠であると、身をもって体験した。私同様、現在妊娠・子育てをしながら働いている助産師には、ぜひこのケアを体験し、ケアの良さを実感し、妊産婦に広めていって欲しいものである。

15.まとめ

昨今の出産を取り巻く環境の変化により、多くの施設で助産師外来を立ち上げる傾向にある。現状では妊娠初期は医師の診察が主で助産師に任されておらず、20 週を過ぎた段階から助産師外来に委ねられる傾向にある。しかし、妊娠初期からの骨盤ケアこそ大切であり、20 週からでは遅すぎると言いたい。妊娠初期からの助産師がケアできるシステム作りを、ぜひとも検討していただきたい。

妊娠初期からの手厚い骨盤ケアで、マイナートラブルを予防し、丸いGS を育て、心地よいと感じられる日々を送れるように援助することは、安産と楽しい育児につながる。何より、不定愁訴を解決する方法を導き出してくれる助産師への信頼感は篤く、妊婦自身が主体的に分娩に臨むことにつながる。そのためには、助産師が骨盤ケアの必要性を認識し、確実な技術を習得することが必要である。

近い将来、妊娠初期からの骨盤ケアがスタンダードケアとなり、妊産婦から助産師を求めるようなるであろう。つまり、信頼関係は、確かな骨盤ケア技術の上に成り立つと考える。