第24回日本助産学会 学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART4

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―納得できる仕事を求めつつ助産を育む―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長
NPO 法人 母子整体研究会代表理事 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 急増する母子整体のニーズに応えられる体制作りを
東京都杉並区 出張開業 助産師 恒川 由紀

演題2 骨盤ケアを導入し助産院での安全快適な分娩を実現
和歌山県田辺市 ちひろ助産院 院長 大平 昌子

演題3 「スタッフ全員が骨盤輪支持を行える」を目指して ~スタッフへのアンケート調査より~
広島県三原市 社会医療法人里仁会 興生総合病院 助産師 山本 久美子

演題1 「急増する母子整体のニーズに応えられる体制作りを」

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恒川由紀

東京都杉並区 出張開業助産師 恒川由紀

Ⅰ.開業に至るまでと杉並区の概要

私は2000 年、出産を期に病院を退職し、2 人目の子供が幼稚園に入園した 2006 年4 月に開業届を出した。施設勤務助産師だった私にとって、正直、開業しても依頼があるのか、技術が伴うのか、生計が成り立っていくかなど、不安でいっぱいだった。開業届を出してから4 年たった今、依頼件数が激増し、数週間予約待ちをしていただくまでになった。

このように依頼が増えたのは、居住地の杉並区の特徴が関与している。杉並区は東京23区内の西側に位置し、関東大震災後、学者・文化人が数多く移り住んだため、都内でも高学歴で収入の安定した住民が多い区である。しかし杉並区の出産率は23 区内でもワースト3に毎年入っており、近年少子化対策に積極的に乗り出した。2007 年に開始した「子育て応援券」制度は、子育て世代からとても高い評価を得られている。依頼件数が増えた理由の1 つは、この「子育て応援券」の導入にある。

Ⅱ. 杉並区の子育て支援制度

杉並子育て応援券
杉並子育て応援券ガイドブック

杉並区で導入した「子育て応援券」制度について簡単に説明する。「子育て応援券」は生後0歳~2 歳までの子供に毎年6 万円分、3 歳~5 歳までは3 万円分の応援券が年度初めに配られる。
この券ではおむつや粉ミルクなどの商品は買えず、事業者のサービスのみ買うことができる。

「子育て応援券」で受けられるサービス一覧の載ったガイドブックが、妊娠届けを出すときに全員に配布されるため、妊娠中に杉並区内の産後のサービスの情報を一度に入手できる制度である。

事業者のサービス内容は親サポート、親子で参加するもの、保育・託児、その他(予防接種など)の四つに分けられる。

親サポートの内容
サービス内容

応援券の実施状況

(親をサポートするサービスに、母乳マッサージ、骨盤調整などがあり、親子参加サービスにはコンサートやリトミック講座などがある)。そして利用者は登録している事業者のサービスを選び、サービスを受け応援券で支払いができる。

応援券の実施状況は、利用者率、事業者数、サービス数、利用額ともに、2008年は激増しており(図1)、2007 年度と比較すると2008 年度は、親サポートは3.7 倍に、中でも骨盤ケアなどの体の調整は6倍に増加している。

親サポートの内容を年齢別にみてみると、骨盤ケアなどの体の調整は0 歳児から5 歳児まで全年齢を通して15%前後という高値をしめている。

Ⅲ.母親へのアンケート

1. 目的

産後の母親達の情報収集手段、困っている内容、望んでいるサービスは何かを知る。

2. 対象

私への施術依頼のあった杉並区在住の産後の母親 54 名

3. 期間

2009 年12 月~2010 年2 月

4. アンケート結果

産後の母親達が情報収集手段として最も多かったのは友達・ネットからの口コミで、次は区で配布するガイドブック(サービス一覧冊子)であった(図2)。
図2~5 とも重複回答あり。

図2:情報収集手段、図3:育児をしてきた中で困ったこと
図4:相談したい、ケアを受けたい職種

「育児をしてきた中で困ったこと」として多かったのは、「体の不調(腰痛、尿漏れ、肩こりなど)」がトップであった(図3)。

「相談したい、ケアを受けたい職種」では、51/54 人が「助産師」と答え、他の職種と比較してずば抜けて多かった(図4)。

図5:応援券がなくても受けたいサービス

「応援券がなくても(自費でも)、受けたいサービス」で最も多かったのが骨盤ケアであった(図5)。

5. アンケートの考察

母親達の主たる情報収集手段は口コミであることがわかった。しかし、産後の体調も精神的にも余裕のない時期には、「子育て応援券」ガイドブックが情報を得る手段として役に立っていると考えられる。

骨盤ケアなどのサービス需要が急増している理由として、腰痛や肩こりなどの体の不調が色々あっても、あきらめるしかないと思っていた母親達が、解決する方法があることを知り、応援券を使う人が増えたためだと考えられる。

助産師によるケアを求める方が多い理由として、妊婦健診、分娩、入院を通して初めて助産師を知り、そこで受ける助産師のケアや知識に多くの人が助かり、信頼を寄せるため、退院した後も助産師のケアを求めるのではと考えられる。

私たち助産師が、産後の母親達に提供できる技術は母乳マッサージが多いが、骨盤ケアも助産師にとって提供できる重要なサービスである。応援券がなくても受けたいサービスで最も多かったのが骨盤ケアであることを考えると、私たちが提供できる助産技術の幅を母乳マッサージの他、骨盤ケアへと広げていくことにより、子育て支援サービスが充実していない自治体でも、助産師への依頼が増えていく可能性は十分あると思える。

Ⅳ.私は助産師としてかくありたい

助産師が持つべき最も基本的な知識、それは分娩の三要素についてではないだろうか?
私は臨床経験を踏んだ後、母子整体研究会で骨盤ケアを学んだ。骨盤というものは本当に不思議なもので、妊娠経過・分娩・産後の復古、そして母乳分泌にも大きな影響を与えている。分娩の三要素の一つは産道。その主要な部分である骨産道、つまり骨盤を、診断しケアできてこそ助産師と言えると思う。

写真1:骨盤を診る、写真2:骨盤を調整する

そして医療者であり、妊娠分娩、産後の経過について知識のある私達「助産師」が、骨盤ケアをするということは、他の職種の人が行う「骨盤ケアなどの体の調整」より、もっと広く深い視点でケアできるということである。

「産後の母親達だけでなく、妊産婦、そしてベビーも一緒にケアできるのは、私達助産師だけ。妊産婦・授乳中の母親・ベビーの骨盤や頸椎はもちろん、全身を診て的確なケアができる助産師に早くなりたい」と、日ごとにその思いは大きくなるばかりである。

Ⅴ.依頼件数の変化

図6:私への施術依頼件数の変化
図7:私への依頼内容の変化

私への依頼件数や内容について、この4 年間の変化を振り返ってみた。開業した2006 年4 月は、依頼件数は一桁だったが、2008 年1 月から増加した(図6)。この時期に、子育て支援サービスを活用しはじめたのと、提供できるサービスを子育て応援券の冊子や区のホームページに載せ始めた。

依頼内容は、最初のころは母乳マッサージがほとんどを占めていた。骨盤ケアを始めた2008 年3 月、助産師として提供できる技術の幅を拡げた。最初のころの骨盤ケアの依頼数はわずかだったが、少しずつ増加した(図7)。
そして、ついに2009 年12 月に逆転し、母乳マッサージより骨盤ケアの依頼の方が多くなった。

母乳マッサージでしか、乳房トラブルの解決法がなかった時には、マッサージを続けるのが私の提供できる技術だった。何度も乳腺炎を繰り返す人、母乳分泌量を増やしたい人、調整したい人・・・そのような依頼に対して、マッサージの他は、授乳方法、授乳回数、食事療法などで乳房ケアを行っていた。確かに改善はできたが、時間がかかり、食事療法は母親達へのストレスになることもあった。そして乳腺炎などは繰り返すことも多かった。

ところが骨盤ケアの知識技術を身につけると、乳房だけでなく全身に眼が向くようになった。乳房トラブルを起こしている原因を全身から探すことができ、その原因に対して、提供できる技術は一気に増えた。

骨盤ケアをすると乳房の経過はとても良く、乳腺炎を繰り返していた人も再発することはなくなった。それは母親達にとっても負担のない方法であり、そのうえ乳房以外の体の不調も改善されるのでとても好評である。最初は母乳マッサージの依頼であった人も、途中から骨盤ケアの依頼に変更していく人達も多い。また技術の幅が増え提供できる選択肢が増えることは、助産師としてもやりがいのあることである。

Ⅵ.まとめ

このように、一介の開業助産師である私に、施術依頼が激増し、数週間も予約待ちになっている現状が生まれた大きな理由として、以下の3 点が考えられる。

写真3:べびぃ整体を取り入れたベビーマッサージ教室、写真4:トコちゃんベルト着用教室風景

骨盤ケアを受けたいと思う母親達の多くは、助産師のケアを希望している。しかし全国的にはその選択肢がない地域がまだまだ多い。杉並区でも骨盤ケアを行っている助産師は私だけである。近隣の複数の病院がトコちゃんベルトを導入し、骨盤ケアを取り入れ始めているため、産後の母親だけでなくベビーの整体や、応援券の使えない妊婦や、杉並区以外からの依頼も増え始めてきている。育児雑誌やマスコミでも骨盤ケアはブームとなってきているので、今後は今以上に骨盤ケアが認識され、依頼件数が増加することは必至だろう。

一人でも多くの助産師に、骨盤ケアを学び、助産力を大きく育んで、仕事を楽しめるようになっていただきたいと願っている。助産師が生き生きと楽しく働くことは、きっと、たくさんの妊産婦や産後の母親達が、自分自身の体作りに励み、生む力と子どもを育てる力を伸ばし、心身の健康を増進させ、楽しい人生を歩むことにつながっていくと確信している。