第24回日本助産学会 学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART4

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―納得できる仕事を求めつつ助産を育む―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長
NPO 法人 母子整体研究会代表理事 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 急増する母子整体のニーズに応えられる体制作りを
東京都杉並区 出張開業 助産師 恒川 由紀

演題2 骨盤ケアを導入し助産院での安全快適な分娩を実現
和歌山県田辺市 ちひろ助産院 院長 大平 昌子

演題3 「スタッフ全員が骨盤輪支持を行える」を目指して ~スタッフへのアンケート調査より~
広島県三原市 社会医療法人里仁会 興生総合病院 助産師 山本 久美子

演題2 骨盤ケアを導入し助産院での安全快適な分娩を実現

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大平昌子

和歌山県田辺市 ちひろ助産院 大平昌子

Ⅰ.はじめに

私が住んでいる和歌山県は気候温暖、世界文化遺産の熊野古道など歴史遺産と緑に囲まれ、食住遊接近の住みやすい県だと自負している。しかし、南北に長い半島のため医療を取り巻く環境は、決して良いとは言えない。

田辺市と西牟婁郡を合わせた地域を西牟婁地方といい、大阪府の85%ほどの広さがあるが、ここに、お産のできる施設は、NICU がある総合病院が1、個人の産婦人科が1、助産院が4ヵ所。その他、分娩を取り扱わない外来だけの産科婦人科は4ヵ所である。大阪から続く高速道路は田辺市までしかなく、平野がほとんどない紀伊半島には、あとは海岸線と山道しかなく、防災ヘリと、和歌山県立医科大学のヘリを駆使し、周産期医療をなんとか維持しているのが現状である。

この地方の平成20 年の出生数は1136 人(里帰り出産数は含まず)。その内、助産所での出産数は115 人、つまり、約10%が助産所出産である。全国の助産所出産は1 パーセント程度なので特異的な地域である。そんな状況下で、地域と連携しながら、楽しくて安全な分娩に向けての私どもの取り組みを紹介しながら、助産師としての知識や技術の向上を皆で分かち合いたい。

Ⅱ.骨盤ケアを取り入れて

助産院

私は1997年9月ちひろ助産院を坂本助産所(坂本フジエ先生)と共同で「バースハウス朝日ヶ丘」として開業。2006年バースハウス朝日ヶ丘よりわかれ、現住所にちひろ助産院を開設。その間、自身の出産を2度経験。2002年から骨盤ケアを学び始め、2005年ころから業務に骨盤ケアを取り入れ始め、2006年から現在の施設を建て完全に独立した助産院を開業した。

図1:分娩件数と出血量

年間分娩件数、出血量ともに横ばい、分娩数自体が少ないので、有意差を出せるほどのデータではないが、図1で示すように1,000mlを超える出血量はなくなってきている。搬送数は分娩時の緊急以外に、妊娠中に転院していただくことが多いが、2005 年までも切迫早産での転院紹介はあまりなかった。

表1:当院からの転院理由の内訳

当院からの転院理由は表1のように分類できるが、児の異常とはIUGR、唇裂口蓋裂、腎臓のう胞、卵巣腫大、不整脈など。母体要因とは妊娠高血圧症候群(PⅠH)、急性膵炎、インフルエンザ、引っ越し、肋骨骨折、脊柱側湾、卵巣のう腫などであった。

外来受診者数は図2に示すように、他院出産予定の骨盤ケア希望者が増えてきている。2009年の外来受診者のうち、当院分娩予定者の月平均は25.5名、骨盤ケア希望で来られる方のうち当院以外で分娩予定の方は、多い月でも15名である。分娩を取り扱うかたわらで骨盤ケア外来をしていくにはこの数字は結構多いと思える。

図2:2009年の月別外来受診者数図3:骨盤位の推移

4年間の当助産院で出産された方の保健指導において、骨盤ケアを実施後、症状の変化を調べたが、図3のように骨盤位に関しては著明に変化してきている。2008年からは外回転を全くしていないが、骨盤位のまま経過した人はなくなった。口コミで「逆子体操だけ教えて」、という人も増えている。骨盤ケアを受けに来られる人のほとんどは、お母さんたちの口コミで情報を得ている。ということは、それだけニーズがあるということである。

総合病院では骨盤位は全例帝王切開である。それが減少するだけでも、病院の負担が少なくなり、その分、助産所からの異常ケースの搬送を引き受けてもらえるので、ありがたいことである。

図4はトコちゃんベルトの効果の実感

図4はトコちゃんベルト着用指導の効果を調査したものであるが、効果を感じた人達はベルトをしないと日常生活を送る上で支障があるほどで、本人から「トコちゃんベルトがなかったらどうなっていたか・・・」という言葉が聞かれる。症状があまり変わらなかった人達の理由として考えられるのは、もともと自覚症状が軽微で1週間くらいの操体法とベルト装着で症状が消える程度で、次の健診までにベルト装着をやめてしまっても大丈夫な人達であったと考えられる。軽微な症状のうちに対処すれば、妊娠中楽な体で、マタニティライフを楽しめると言えよう。

Ⅲ.事例紹介

1 骨盤位

1) 当助産院での分娩予約をしている第2 子妊娠中の妊婦。妊娠34 週ころ「骨盤位が治らないので、助産院で産めないかもしれないと病院で言われた」と来院。第1 子は大阪で出産。
その時もずっと骨盤位で、病院に3 回入院して外回転術を受けた。今回は操体法とトコちゃんベルトの着用指導を実施。翌日、頭位を確認。妊娠36 週の健診で、晴れて助産院への紹介状をもらって来た。

図5:掻痒感を予防しトイレでも困らないトコちゃんベルトの着用方法

2) 他院で出産予定の初産婦。妊娠32 週の病院での健診時「骨盤位のままでは帝王切開と言われた」と来院。
操体法とトコちゃんベルトを指導。その後、助産院には連絡がなかった。産後2カ月たって腰痛を訴えて来院。
あの後、頭位に戻った。でもベルトがかゆくなって、は ずすことが多くなり、その後また骨盤位となり、結局帝王切開となった。フォローできなかったこと、痒くなりにくい着用指導ができなかったことが悔やまれる事例であった。

2 恥骨部痛

第1子分娩後に、恥骨部痛あり。恥骨周辺の点状出血斑あり。整形外科にてコルセットを作成したが、あまり合わず、ほとんど1カ月間寝たきりで、排泄も家族の協力を得ていた。
育児行動は2カ月以降になんとか少しずつでき始めたくらいであった。第2子を、また動けなくなることを覚悟で妊娠し、当院来院。社会的適応での帝王切開も視野に入れ、助産院での骨盤ケアをしながら病院と掛け持ちで妊娠経過観察。

熱心にトコちゃんベルト着用と操体法を続けた結果、仕事も産休まで勤められた。分娩所要時間は2時間の安産、分娩室から自室まで歩いて帰ることができた。その姿を見た家族は、赤ちゃんよりも、歩いているお母さんをビデオに撮影されるほど喜んでおられた。

Ⅳ. べびぃ整体の導入

べびぃマッサージ教室

骨盤ケアをして体を整え、育てやすい子どもを生み、生まれた後もべびぃ整体を取り入れながら育児をしている人は、育児を楽しめている。当院では、このようなべびぃマッサージ教室を月2回開催し、その中にべびぃ整体を導入している。赤ちゃんがなぜ泣いているのかを考え、自分の手で何らかのケアをしてあげられるという、引き出しをたくさん持ったお母さんが増えていけばと願ってこの教室を始めた。

赤ちゃんの向き癖がキツイとか、いつも反って育てにくい、ずっと抱いていないと泣く、などなどの悩みを持つお母さん達に、当院で出産されたお母さん達から、口コミでこの教室の評判が広がり、3か月先まで予約が取れない状態になっている。

Ⅴ.結語

太古より女性は分娩をしてきた。しかしどれ一つとして同じ分娩というものはない。そのため、腰痛や恥骨部痛などの症状や訴えも多岐にわたる。それなのにそれらの訴えは「不定愁訴」という言葉でひとくくりにされているのが現状と言えよう。「妊娠中だからねえ」とか「産んだら治るよ~」と保健指導をして、妊婦さんに喜んでもらえたことがあるだろうか?

また、赤ちゃんの向き癖や、体が硬くて反り返って泣いてばかりで寝ないなどを心配するお母さんが多いが、助産師に相談して「心配ないよ。個性だからね」「そのうち治るよ」と保健指導をして、お母さん達に喜んでもらえたことはあるのだろうか? 今まで、どれだけの妊婦さんやお母さん達が、そのような言葉に涙を呑んできたか・・・と思うと、心が痛む。

でも、骨盤ケアを実施し、セルフケアできるよう指導することで、異常というほどではない症状や訴えが解消する。べびぃ整体で、赤ちゃんも日ごとに機嫌が良くなり育てやすい子になっていく。それが助産師への信頼につながり、妊婦さん自身の生む力を育み、子どもを育てる力を育むことにつながる。

助産師は、妊娠、出産、育児、女性の人生のパートナーであり、分娩においては、生理的な自然分娩の介助者としてのエキスパートでなくてはならない。異常や病気は医師が必死で管理している。我々助産師は果たして必死に正常分娩に導くべく保健指導をしているだろうか? 産婦人科や小児科医が現場では今日も疲労困憊しているのに、もっと助産師は、自分の立場でできることがあるのではないか・・・と考えたときに「骨盤ケアや操体法、をしっかり学んで、安産のできる体作りに取り組めば、医療との両輪で妊産婦を支えることができる」と、私は自信を持って言える。

助産所での分娩が10%という特異な地域でやっていけるのも「異常は必ず診てくれる病院がある」との安心感があるからである。裏返せば「正常分娩は助産院が頑張ってやってくれている」と病院の医師からの信頼を得なければならない。中途半端な知識や技術では信頼は得られない。

今、周産期医療を取り巻く様々な問題に我々助産師も翻弄されている。助産師は医療行為をできない。薬も処方できない。なので、できることを一歩ずつやっていくしかない。我々助産師は、骨盤ケア・べびぃ整体の知識と技術を身につけ、母子保健、周産期医療の中で独自性を発揮し、生き残って行かねばならない。そのために、もっともっと助産師はやらなきゃいけない! やれる!