第34回日本母体胎児医学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART7

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―胎児期・新生児期からできる股関節脱臼の予防―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 不良胎勢は整形外科疾患と深い関係がある
特定医療法人社団昭愛会 水野記念病院 病院長 鈴木茂夫

演題2 当院における新生児ケアのご紹介
医療法人恵仁会 田中病院 副主任 助産師 栗原芳美

演題1 不良胎勢は整形外科疾患と深い関係がある

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病院長 鈴木茂夫

特定医療法人社団昭愛会 水野記念病院
病院長 鈴木茂夫

Ⅰ.はじめに

股関節は人体で最も重要な関節である。歩行や走行はもちろん、立位姿勢の保持や安定した座位の持続も股関節の正常な機能があってはじめて可能となる。したがって、この関節の機能障害が発生するとあらゆる人間の身体活動が著しく制限されてしまう。

股関節障害の原因となる疾患の中で、我が国で最も数多く深刻なものは先天性股関節脱臼である。この疾患は歩行障害の直接的原因となるばかりでなく、完治せしめなければ将来変形性股関節症が発生し、患者は股関節機能不全と痛みのためにやがて人工股関節手術を余儀なくされることとなる。人工股関節そのものが1台100 万円以上もするということ、そして我が国においては人工股関節手術に至る原因疾患の多くは先天性股関節脱臼である、という事実は意外と知られていない。もしこの疾患そのものの発現を予防する技術が開発されるならば、小児股関節外科学の歴史が塗り替えられることとなる。

この疾患の発現を予防するためには、病因を明らかにしなくてはならない。ホルモン分泌異常、遺伝、胎内姿勢、出生後の環境など、いくつもの原因が考えられているが、そのメカニズムが明らかになっているのは胎内姿勢ならびに出生後の環境の影響である。今回は股関節脱臼の発生要因としての赤ちゃんの胎内姿勢を中心に述べる。

古来より、この疾患が骨盤位分娩児から股関節脱臼が高頻度に発生することは知られていたがその理由はよくわかっていなかった。しかし、胎内姿勢と脱臼発生率を詳しく調べてみるとその発生メカニズムがしだいに明らかになってきた。ここでは子宮内での下肢の形と脱臼との関連を統計学的に明らかにし、脱臼発生メカニズムを考察する。

Ⅱ. 調査結果

1.単殿位の胎勢をとっている場合に先天性股関節脱臼は高率に発生する。

図1:胎位胎勢別股関節脱臼発生率
図2:複殿位、単殿位

著者は、1973 年から1980 年までに松江赤十字病院ならびに大津赤十字病院において生後1週間以内に新生児股関節脱臼検診をおこなってきた。その結果、股関節脱臼の発現は胎児が子宮内において膝関節を伸展していることと深い関係があることがわかった。

図1は自然分娩における胎位胎勢別股関節脱臼発生率である。それによると、検診総数6,559 で、頭位6,075 中42 例(0.69%)、複殿位31 例中0、足位46 例中1 例(2.2%)、単殿位111 例中22 例(19.8%)であり、単殿位分娩児(図2,3,4)からの発生が高率に見られた(p<0.005)。

帝王切開分娩の場合で、胎勢が判明しているのは207 例であり、そのうち頭位からの脱臼発生は185 例中2 例(1.1%)、複殿位11 例中0、単殿位11 例中2 例(18%)で、やはり帝王切開分娩においても単殿位の胎勢からの発生率が高かった。

単殿位から発生した脱臼の重症度を調べると、頭位から発生した場合に比べて著しく脱臼度の高い例が多かった。

図3:出生直後の単殿位分娩児、図4:出生後数時間経った単殿位分娩児、良好胎勢だった頭位分娩児
図5:両側脱臼発生例と片側脱臼発生例の比較

脱臼の両側発生について調べると、自然分娩の頭位から発生した脱臼児42例中両側例6例であり、単殿位では22例中10例までが両側例であった(図5)。また、帝王切開の場合、胎勢が頭位の場合は両側例が無く、単殿位から発生した2 例はともに両側例であった。

2.頭位で膝を伸展している場合には股関節脱臼は極めて高い頻度で発生する。

図6:反張膝 膝伸展の頭位分娩児

1974 年から1980 年までの京大病院ならびに大津赤十字病院において、図6 のような反張膝は7例(発生率約0.008%)で、このうち6例に股関節脱臼を認めた(85.7%)。

頭位で膝が伸展している場合には、膝関節は単に伸展しているのではなく、このように過伸展( 逆向きに曲がった状態) となり「反張膝」となっていた。

Ⅲ. 考察

1.胎位胎勢別にみる股関節脱臼発生率

図7:正期産児と早産児の頭位率の比較

頭位6,075 中42 例、複殿位31 例中0、足位46 例中1 例、単殿位111 例中22 例で、単殿位分娩児が高率であった。両側性脱臼を考慮すると、脱臼児は65 例、脱臼股81 股であり、頭位からの脱臼股は48 股、複殿位0、足位1 股、単殿位32 股なので、全脱臼81 股のうち単殿位からの脱臼数は32 股(40%)となる。しかも単殿位からの脱臼は重症例が多いことを考慮すると、先天性股関節の発生要因として、単殿位がいかに大きく関与 しているかがわかる。

2. 胎位固定時期

産科健診の際に胎児を超音波断層像で観察すると、30 週頃までは胎内は比較的余裕があることが多く、四肢や脊柱を自由に動かして骨盤位や頭位などさまざまな胎位・胎勢をとっていることが多い。しかし、30 週を過ぎてくると胎児に対して子宮は相対的に小さくなり、胎児は自由に運動する余裕がなくなってゆく。この時期に双角子宮などの子宮の形の異常や臍帯巻絡、あるいは、胎児の筋力が弱いとか、運動機能不全など、なんらかの理由で胎児の運動が妨げられると、それまでの胎位や胎勢を変えることができず、膝屈曲が不十分のまま骨盤内に固定されて単殿位が成立するものと推測される。

一方、正常な丸い子宮であれば、胎児はその形に合わせて体全体を丸くして、重い頭は重力に従って下方に移動し、頭位をとってゆくようになると推測される。

図7 は、正期産児と早産児の頭位の割合の図である。早産児では頭位に変わるのが遅いことがわかるが、その理由については筆者には説明しがたい。分娩に携わっておられる皆様で、ぜひ、深く掘り下げていっていただきたい。

図8:単殿位、図9:膝伸展の頭位、図10:良好な胎勢の頭位

3. 股関節脱臼の発生機序

骨盤位の場合は(図8) 膝関節が過伸展することは少ないが、頭位の場合は図9 のように膝関節が過伸展しやすく、股関節脱臼率が高いのはこのためと考えられる。
図2のような単殿位の胎勢では反屈位を示し、頸椎は強く前彎、胸椎や腰椎は自然な後彎が消失し、不自然な姿勢をとることとなる。

図11:股関節脱臼の発生機序

通常の頭位では体全体が丸くなり膝も屈曲しているため、膝屈筋の過度な緊張は生じない(図10)。しかし、単殿位もしくは頭位で膝反張の場合では、膝伸展かつ股関節屈曲が持続することとなる(図11)。膝伸展によって膝屈筋は無理に伸ばされた状態となり、大腿骨頭と臼蓋の間に位置異常が生じ、骨頭は臼蓋から脱臼しやすくなるものと考えられる。

Ⅳ.まとめ

先天性股関節脱臼の発現因子として最も重要なものは胎児の膝伸展である。膝を曲げることができないと胎児の姿勢は全体として反屈位となる。もしこのような子宮内での不良姿勢を正し、膝伸展から屈曲に導く技術が確立するならば、それは医学史に残る大きな出来事となるに違いない。

参考文献

  • 鈴木茂夫, 骨盤位分娩と新生児クリック, 整形外科,31 : 249-254,1980.
  • 鈴木茂夫, 藤田仁, 斎田坦男, 光野一郎, 山田忠尚, 別府徹巳, 単殿位分娩児における下肢自動運動の経日的観察, 中部日本整外科災害外科学会雑誌,23 : 94-95,1980.
  • 鈴木茂夫, 単殿位と先天性股関節脱臼, 臨床整形外科,15 : 939-946,1980.
  • 鈴木茂夫, 藤田仁, 光野一郎, 山田忠尚, 別府徹巳, 縦抱き方式による脱臼予防の試み, 中部日本整外科災害外科学会雑誌,24 : 314-315,1981.
  • 鈴木茂夫, 山室隆夫, 藤田仁, 単殿位と先天性筋性斜頚, 臨床整形外科,18 : 112-119,1983.
  • Shigeo Suzuki, Takao Yamamuro. Fetal movement and fetal presentation. Early Human Development 11:255-263, 1985
  • Shigeo Suzuki, Takao Yamamuro. Correlation of fetal posture and congenital dislocation of the hip. Acta Orthopaedica Scandinavica 57:81-84, 1986
  • 鈴木茂夫, 周産期を中心とした先天股脱の発生要因について, 整形災害外科,29 : 601-608,1986.
  • Shigeo Suzuki, Takao Yamamuro. The mecanical cause of congeni tal dislocation of the hip joi nt. Acta Orthopaedica Scandinavica 64:303-304, 1993.
  • 鈴木茂夫, 先天性股関節脱臼の病理・診断・治療の現状, 日本整形外科学会雑誌,72 : 191-201,1998.