第49回日本母性衛生学会総会・学術集会
イブニングセミナー 骨盤ケアで改善!

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル

目次

ご挨拶
国立病院機構長良医療センター産科医長、周産期センター長
川鰭市郎

演題1 骨盤ケアで改善! 妊娠・分娩・産褥・授乳・新生児期のトラブル
特定非営利活動法人母子整体研究会 代表理事 渡部 信子

演題2 妊娠・産褥に及ぼす骨盤弛緩の問題
医療法人財団 小畑会 浜田病院 産婦人科 (前:東京日立病院勤務)合阪 幸三

演題3 骨盤ケアで改善 切迫早産・早産
静岡市立清水病院 岡村 真里,吉田 順子

演題4 骨盤ケアで減少 分娩時出血
エンジェル助産院 齋藤 範子

演題1 骨盤ケアで改善! 妊娠・分娩・産褥・授乳・新生児期のトラブル

LINEで送る

特定非営利活動法人母子整体研究会 代表理事 渡部 信子

Ⅰ.助産師なのに、なぜ整体?

1. 脚が悪く弱かった子どもの時代

私は4 人兄妹の一番下、母が36 歳の時に生まれた。物心ついたころから何度も、朝目覚めると立てないことがあり、その度に整体(?)で歩けるようにしてもらっていた。小学校に入ると走るのも飛ぶのもクラスでダントツのビリ。そのころから、私は人一倍体が弱いと自覚。中学校に入学した時に「何とかこの体を変えよう」と決意してバレーボール部に入ったものの、他の人たちのように俊敏に動けず、夏には左足の指先まで痺れ、秋には限界感に打ちのめされ退部。高校に入学した時、丈夫な体になりたい一心で、走るのが遅くてもできる弓道部に入部。弓道のおかげで、整体をできる体の基礎が作られたと思う。

2.膝と腰の痛みの始まり

就職後に始めたスキーで右膝の内側半月板損傷となり、3 か月間右足を引きずっていたら、右は治ったものの左の膝が痛み始め、これが36 年たった今も完治せず、一進一退。その後は三人の出産子育てで、次第に腰痛は悪化していった。三人目の産後10 年頃には、仕事も踊りもできないほど強くなった。勤務していた京大病院の整形外科を受診し、腰椎7 方向のX-P を受けたが、もらった診断は「異常なし」だった。

3.「62 歳で私は死ぬ」との不安

私が三人目を出産して2 年余りで母は他界。67 歳だった。40 歳頃から膝の痛みのため歩行が困難になった母は徐々に肥満になり、60 歳頃から微細脳出血を繰り返し、入退院を繰り返していた。思えば40 歳から67 歳まで、膝の痛みを抱えながらの、楽しみの少ない人生だった。しかし、考えてみると、私は母より5 歳も若く症状が進行していた。としたら「私は62 歳で死ぬのでは?」との不安に駆られるようになった。

Ⅱ.私の方向性を決めた五つの出会いと、母子整体の五つの源泉

1.『新撰産科学』

我々京大の助産婦学生が教科書として使用していた『新撰産科学』には、「非協調性の陣痛だと腰痛が強く、たとえ児頭骨盤不均衡がなくても、児頭は固定しない」などなど、実に不思議な記述が満載だった。なぜそうなるのか先生に尋ねても納得できる解答は得られなかった。この本を使って教鞭をとられていた二人の先生は、私が京大病院に就職して数年で国立大学の教授となられた。送別会ではお二人とも私に「アンタはなぁ、ほんまに憎たらしい質問ばっかりしたなあ~~」とおっしゃった。

その頃から「学生時代の私の質問に答えられなくても、国立大学の産婦人科の教授になれるんやなあ。きっと私の質問に答えられる医師は、日本全国どこにもいないんやわ」と納得するようになり、「分娩のメカニズムはまだ解明されていない。何とか少しでも解明したい」と考えるようになった。この本は今から50 年あまり前に初版、私のは40 年あまり前の版である。非協調性の陣痛と腰痛と子宮口の開大の関連、児頭の固定、回旋、分娩時出血、、、学生時代から抱き続けていたさまざまな疑問は、卒業後15 年ほどしてから徐々に解け始め、骨盤を勉強してやっと解明することができた。

2.小児整形

私が京大病院に就職して間もなくの頃から、石田勝正先生をトップとする小児整形外科医が新生児室に来られるようになった。股関節脱臼は先天的に起きるのか、児の扱い方によって後天的に起きるのかなどを明らかにするために、全児を検診されていた。その結果、オムツの当て方は従来の三角に畳む方法から現在の当て方に、オムツカバーの形も現在の形に変わり、児の下肢を伸展させない育児技術が普及していった。私は整形外科医から新生児の股関節の診察の仕方を教えてもらったり、整形外科医同士の話を傍らで聞く中で、多くの疑問を持った。中でも最大の疑問は「生後すぐにクリックサイン(+)の子でも開排制限はないし、生後1 カ月でもない。なのに、なぜ2 カ月になったら開排制限が起きるのか?」であった。この疑問も私の中で解決したのは整体を学び始めてからである。

その後、私が婦人科外来に換わると、新生児の検診に来られていた小児整形外科医の一人が、胎内姿勢と股関節脱臼の関係を研究するため、外来妊婦の腹部超音波検査に来られるようになった。この医師(鈴木茂夫氏)と私は学生時代からの友達であったため、彼は分かったことをいろいろと私に語ってくれた。その中で最も私が衝撃を受けたことは「妊娠後期に膝を伸ばしている胎児は生まれたら必ずクリックサインが(+)だ。膝を伸ばした姿勢は妊娠10 週台にできて、一旦伸びたら生まれるまでずーっと伸ばしている子がいる」ということであった *1)。

つまり、股関節脱臼になるかどうかは妊娠中から分かるのだから、生まれてすぐに股関節脱臼を予防する児の扱い方を続ければ、股関節脱臼にならないのである。私は現在までずっとこの教訓を励行し、私がケアした新生児で股関節開排制限をきたした子はこれまで一人もない。なのに、鈴木茂夫氏のこの28 年前に発表された論文はほとんど知られておらず、股関節脱臼予防の観点で胎内姿勢を超音波で確認している産婦人科医がいるなど聞いたことがなかった。生まれた後の育児技術については、整形外科医は声高らかに指導をしているが、胎内姿勢に関しては整形外科医が知ることは困難であり、ましてやそれを改善させられることはまずない。しかし、最近ようやく、母整研会員助産師の影響で、GS や胎勢に関心を示し積極的に写真を撮ってくださる産婦人科医が現れ始めた。母整研の技術を学んだ助産師のケアで、胎勢を改善できたという報告も相次いでいる。鈴木茂夫氏には、昨年の母整研総会時の研修会で講師をしてもらった。彼の論文の正しさを母整研の総力で証明し、股関節脱臼を始め、硬直したつらい体を持つ児をなくしたい。

3.小児発達

学生時代からの友人が二人、発達を専門とする小児科医になった。私もその二人も京大で働き家もお互いに近く、子どもの保育所や学童保育も一緒だった。その影響で私は小児の発達にも興味を持つようになった。彼らのグループのトップの一人、京都の聖ヨゼフ整肢園 (現 聖ヨゼフ医療福祉センター)の家森百合子先生が京大の新生児室に来られた時に私は一対一で先生から姿勢の診方や発達を促すケア方法などを教えてもらった。その中で最も印象深く、今も役立っていることは「発達の良し悪しと哺乳の上手さは関係が深く、発達を促すためには上手に哺乳できるよう援助することが大切。上手く哺乳できるためには、両手の指をよくなめられるようにしてあげることが大切」ということである。これを機に私は児の姿勢や哺乳、発達にも関心を持って取り組むようになった。この友人二人のうち一人は、現在、聖ヨゼフ医療福祉センターの医長をしていて、昨年の母整研の勉強会で講師をしてもらった。もう一人は「赤ちゃん学会」初代会長となり「寝かせるのも抱くのも新生児のうちから背中をまっすぐの方が酸素飽和度は高い」と主張するA 社の広告塔となってしまった。

4.整体・カイロプラクティック

「異常なし」と診断をもらった私の腰痛はいろいろと体操などをしても一向に良くならず、悶々としていた時、新聞折り込みのチラシの「腰痛の原因は骨盤にある」という字が飛び込んできた。さっそくその説明会に行き、そこで聞いた骨盤と脊柱に関する講義は、私の眼の鱗を何枚もはぎ取った。講義の後、骨盤のゆがみを調整してもらったところ、3cmあった脚長差が消え、2 週間経った頃には全く腰痛知らずの体となっていた。たった数秒の施術で15 年間悩んだ腰痛が消えるなんて。学生時代、誰にも負けないくらい勉強したはずなのに、骨盤や脊柱がゆがんで様々な症状が発生するなんてことは、医学書には全く書いていなかった。

もっと勉強したい。他の整体の先生の講義も聞こうと行った先で、講師の先生は「女性の腰痛の重症者は、恥骨が一直線になっていなくて段差ができている。男性はそんなことはない。女性は出産時に恥骨が開くが、ちゃんと一直線に閉じるまで、産婦人科の医者も助産婦も責任を持ってみようとしない。本当はその人たちがすべき仕事を我々がしないといけなくなっている」と話され、私は胸を刺されるほどの衝撃を受けた。

しかし、この二人の先生の理論や技術に満足できなかった私は、他の先生を探そうと電話帳をめくった。「カイロプラクテイック教えます」との小さな広告で見つけた山崎昇先生の、目の覚めるような素晴らしい技術に感激し、今も師事している。

母の膝の痛みも肥満も、産後にきちんと骨盤が整うまでケアされていれば、あんな楽しくない人生を送らなくてもよかったのでは? もっと勉強してこのことを日本中の助産師に教えていかないといけない。したいことをせずに62 歳で死ねない。これを私の一生の仕事にしようと決意した。

5. 操体法

最初に操体法を学んだのは山崎先生からであるが、その後、創始者の橋本敬三先生から直接学ばれたお二人から学んだ。そのうちのお一人M 先生は「どんな体の痛みでも操体法で治る。しかし、、、五十肩だけはなおらんな~」とおっしゃった。私の五十肩も確かにどんな操体法をしても治らなかったが、自分で考案した「肩前押しの操体法」をしたところ、日に日に改善していった。それから私は操体法の面白さにはまってしまい、次々と新しい操体法を考案し、普及に努めている。母整研のケアの基本はセルフケアであり、操体法は体のバランスを整えるのに実に有効な方法である。

Ⅲ. 今後の課題

1. エビデンスの集積

京大病院を退職し、健美サロン渡部を開き「骨産道復古促進研究会」を立ち上げて10 年余り、「母子整体研究会」と改称して5 年。特定非営利活動法人(NPO)となって3 年余り。この間、私が感じたことや考えたことを経験の中で体系化したものを語ったり書いたりしてきたが「統計的有意差があるのか」と言われた時、私が証明することは難しくてできなかった。しかし、母子整体研究会の整体セミナーを受講して、骨盤ケアを施設内で実施している多くの助産師や医師が調査・研究をし、学会・雑誌などで発表されるようになり、母整研の理論の正しさが後追い的に証明されてきている。そこで、研究発表した人たちに集まっていただき、2009 年1 月18 日、京都で第一回母子整体研究会研究発表会を開く。テーマは「『骨盤ケア』と『べびぃ整体』~周産期のスタンダードケアを目指して~」 である。今後は定期的に開きたい。

2. 書籍出版

臨床で新人の看護師でも読めばすぐに働ける「骨盤ケアマュニアル」を書いて出版したいと考えている。もちろん、『新撰産科学』の内容を整体的視点から解説し、さらに問題の解決法も載せた本も書く予定である。興味深い症例やデータ、画像などが得られた時は、ぜひ母整研事務局に送っていただきたい。

3. 母子医療危機の打開

母子医療危機が叫ばれているが、打開策はあるのか? 分娩取扱施設が急速に減少していく中で、助産師の手による自然な分娩を志向する女性が増えていると聞く。人類史上経験したことのないほど、女性の体が脆弱化していると思えるが、これに対処する知識と技術がなければ、正常な妊娠分娩経過は望めないと私は考えている。骨盤は骨産道。骨盤をはじめ全身を健全化することにより、安産でき、健康な児を生み育てることができる。安産が少なく大出血が度々で、低出生体重児や病児がたくさん生まれれば、産科医も小児科医も忙しくなるのは当然である。母整研の理論と技術の普及により、積極的に自身の健康増進めざして努力する妊産婦を育てることができれば、母子医療の危機は打開できると確信している。

4.医療・保育・教育・体育・出版関係者との連携強化

セミナーや施術をする中で、若い女性の体力のなさ、不器用、技術・言語・理論を覚えられないことに嘆かわしさを感じる。また、助産師として施設内で働いていても、分娩に関して全面的に医師が主導権を握っているために、母乳哺育にのみ関心が深く「母乳育児に役立つのなら」との動機で母整研セミナーを受講する助産師もいる。このような助産師でも、褥婦の体が楽になることにより、母乳哺育が楽にできるようになることを知ると、妊婦の体をケアすることの大切さを理解し、妊産婦の観察や援助に積極的になることも多い。

初めてセミナーで会った時には、顔色も悪く技術もほとんどできなかった助産師でも、2 度目3 度目に会った時は、顔色も姿勢も表情も良くなり、妊娠分娩経過にも関心を示すようになり、テキパキと体を動かせるようになっていることが多い。骨盤のゆがみ・ゆるみが改善され、全身のバランスが改善すると、こうも人は変わるものかと驚かされることがしばしばである。

つらい体を持っている人の多くは、頭がゆがんでいて歯並びも悪く、脊柱の生理的湾曲は弱く、骨盤は類人猿型に近い。このような体にしないためには、どうすればよいのか? 産科医療関係者だけの努力では対処できない問題である。産科・小児科・整形外科の壁を取り除き、お互いの意見交換や理論的統合が必要である。また、医療関係者のみならず、教育・体育の専門家とも連携を深め、出版関係者の協力を得ることも大切である。

「妊婦の腰痛は産めば治る」、「子宮収縮が悪ければ輪状マッサージ」、「骨盤位なら膝胸(肘)」位、「赤ちゃんの頭のゆがみは心配ない」、「姿勢の良い人間にするには新生児のうちか寝かせるのも抱くのも背中をまっすぐに」などなど、日本の間違った常識は、我々の努力で少しずつ変わりつつある。そして、医療・保健行政を変えるまで、体力の続く限り頑張り続ける覚悟である。

引用文献

  • 柚木祥三郎・川上博,新撰産科学,第3 版,金原書店,1971
  • 鈴木茂夫,単臀位と股関節脱臼,臨床整形外科,第15 巻10 号,1980,P939-946