第51回日本母性衛生学会総会・学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART5

富山発 元気いっぱいの母子を育てる取り組み

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長
NPO法人 母子整体研究会代表理事 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 妊娠中からの身体作りでハイリスク妊娠の予防を目指す地域活動の実際
富山県 たんぽぽ助産院院長 助産師 野澤 昌子

演題2 「笑顔で楽チン子育て」を支援する発達教室
富山県 親子育ちあい教室ぽぽらんど代表 竹内 華子

演題1 妊娠中からの身体作りでハイリスク妊娠の予防を目指す地域活動の実際

LINEで送る
助産師 野澤昌子

富山市 たんぽぽ助産院 院長
助産師 野澤昌子

Ⅰ.はじめに

私が住んでいる富山県は、海の幸が豊富な富山湾と北アルプスの立山連峰に囲まれ、 澄んだ空気と水が豊富。県民性はまじめで働き者と言われ、 6歳未満の子どもを持つ女性の有業率も島根県に次いで全国2位、65%である。 子どもができても夫婦共働きの家庭が多いことがわかる。 そんな中、近年の富山県は出産年齢の高齢化や早産率上昇などにより、いわゆるハイリスク妊娠が増加。 高度周産期医療やケアを求める声が大きくなっている。

早産の推移

富山県の出生数は年々減少傾向にあり、2000(平成12)年に10,170人だったのが、 翌年からは1万人を切り、2009(平成21)年には8,426人にまで減少。 早産率の推移を見ると、2000(平成12)年では6.3%であり、 国率の4.6%よりも高く、その後やや数年間減少したものの、2005(平成17)年からは6%を超え、国率と比較してもずっと高い状況が続いている。 低出生体重児の出生率も1990(平成2)年までは5%台だったのが、2000(平成12)年からは急上昇し、8%~9%台になっている。

早産や低出生体重児が国率より高いにもかかわらず、母乳率は日本のトップレベルを長年維持している。 それを可能にしているのは「母乳育児推進連絡協議会」を発足させ、 地域の母乳育児推進に力を注いでいることや、出産施設の医師や助産師、 地域の支援スタッフにより、適切な母乳支援が継続的に行われていることが考えられる。

早産などのハイリスク妊婦が減れば、もっともっと母乳率は上がるだろうし、 心身ともに健康な母子が増えるはずである。出生数が減少している現在、 いかにハイリスクにさせないよう努力するかが、今最も問われていると思う。 そんな中、助産師は何ができるのか?今回の報告をまとめる中で、 地域の仲間と模索し活動している内容を振り返り、更なる発展に向けて考えてみたい。

Ⅱ.富山県の子育て支援制度

とやまっ子 子育て応援券

富山県では「とやまっ子 子育て応援券事業」として、2008年4月1日以降に子どもが生まれた家庭に、市町村から応援券が交付される。生まれた子どもの兄弟姉妹も応援券による対応が可能である。配布金額は第1・2子、1万円分(500円券×20枚×1セット)第3子以降、3万円分(500円券×20枚×3セット)である。

発足当初、サービスが受けられる内容は ①中学生までの任意の予防接種(インフルエンザ・水痘・おたふくかぜに限る)②医療機関での乳児健康診査 ③一時預かり ④子どもの送迎 ⑤病児・病後児保育 ⑥家事サービスであり、助産師が行うケアには利用できなかった。しかし、「助産院でのケアにも使えるといいのに。お産直後に一番困るのは母乳のことだから」との母親の声が助産師に多く寄せられ、県知事との懇話会の席で、母親たちの声を知事に伝えたところ、数ヵ月後の2009年6月から、助産師が行う母乳育児相談や沐浴指導にも利用できるようになった、それから1年が経過、子育て応援券の利用率は飛躍的に 上昇した。それを維持しさらに上昇させるには、個別の母子の問題に対応できる実践力が必要である。

また今年から、自治体としては初めて母子健康手帳の副読本としてマタニティーサポートダイアリーが母子健康手帳の交付時に配布されることになった。各月齢に応じた医師・助産師のアドバイスや、パパ向けのコメントも掲載されている。 妊婦健診時の超音波写真の貼付、日記帳のように自分の体調などを書き込め、 好評を得ている。妊婦が自分の健康状態に関心を持ち、身体の変化に気が付き、 心配なことは相談できるように意識してもらうことにより、 異常の早期発見と同時に、母性や父性を妊娠中から育てることが目的である。 私はその検討委員会にも参加し、ダイアリーが完成するまでの経過に携わった。

Ⅲ.助産院の来院者の特徴

私は総合病院や個人の産婦人科医院の勤務経験を経て、1997年に入善町で開業した。 開業当初は助産師学校の教員、保健所での勤務なども経験し、10年間で自宅出産や助産院出産を約200件、 介助させていただいた。一人ひとりに満足なお産をしていただく喜びを感じつつも、 富山県におけるハイリスク妊婦や低出生体重児が増加している中で、 「私は何ができるのか?」と考え込むようになった。 「もっと自分にふさわしい妊産婦への関わり方があるのでは?」と悩んだ末、有床助産院を閉鎖。 分娩介助業務をやめて、2008年7月、施設を入善町から富山市に移転し、 保健指導のみの開業形態に変えた。

1. 初診者の年齢

初診者の年齢

初診者の年齢は以下の通りである。
20歳~24歳 5.5%
25歳~29歳17.5%
30歳~34歳 48%
35歳~39歳26%
40歳以上 3%

2.来院の時期

来院の時期

富山市での開業当初からの初診者の割合でみると、妊娠中に来院したケースが40%、産後に来院したケースが60%である。

初診時の妊娠週数を見ると、妊娠15週までが全体の5.5%、16週~27週までが17%、28週以降は17.5%でる。産後では1か月未満が7%、1~3か月までが21%、4~6か月11.5%、7か月~1歳未満が7.5%、1歳以降は13%である。

3. 初診時の主訴

初診時の主訴

初診時の主な訴えを見てみると、骨盤ケアを目的に妊娠中に来院しているケースの割合は26%、産後に骨盤ケアを望んで来院されたケースは12%であった。 開業当初は腰痛が悪化してから来院する人が後を絶たなかったが、最近では、悪化してから来院する人が減少している。妊娠中からの骨盤ケアの必要性を知人などから口コミで情報を得て、安産できるようきちんと自分の身体をケアしたいとの声が増えて来ている。 妊娠初期に骨盤のセルフケアを始めることにより、妊娠後期の腰痛や尿漏れ、浮腫、静脈瘤、 痔などのマイナートラブルから身を守ることにつながると考える。

母乳育児相談で訪れるケースが28%と最も高いが、そのほとんどが肩こり・背中の痛み・腰痛などを伴っており、 全身のケアをすることで、ほとんどの方が見違えるほど姿勢や母乳分泌が良くなり「身体が楽になった」「もっと早く来ればよかった」と話される。全身をケアすることにより、体調が良くなり、乳房のみに焦点を当ててケアするよりも、乳房トラブルが起きにくくなっている。 最初の来院目的は乳房ケアであっても、肩こりや腰痛のケアのために継続して来院され、 卒乳後のケアに来院されたときも、次回の妊娠に備えて、骨盤ケアを依頼されることも多い。 骨盤ケアの意識の高まりが一般の妊婦さんにも広がって来ているのを感じる。

「抱きにくい」「反り返って泣いてばかりいる」「飲んでくれない」などと訴え、 ベビー整体を希望して来院されるケースも最近増えて来ている。 児の向きぐせや反りかえりが強ければ授乳は上手くできず、片方の乳房だけトラブルを繰り返しがちである。 母子の身体を並行してケアすることにより、母子ともに姿勢が改善し、きれいな姿勢で楽に授乳できるようになる。 ケアを受けられる毎に、母子ともに元気になり、表情が明るくなっていくのを目の当たりにすることは、 助産師としてこの上ない幸せである。

4. 母親たちの情報入手ルート

母親達の情報入手ルート

当助産院を知った情報入手ルートは、口コミが63%、ホームページが24.5%、他の助産師からの紹介が7.5%、保健センターの紹介3.5%、イベントなどで知ったが1.5%であった。

5.子育て応援券の利用率

子育て応援券の利用率

母乳育児相談が目的で来院されたケースのうち、里帰り出産や、既に使い切ってしまったケースを除き、ほぼ100%が利用していた。

Ⅳ.ケアの実際

ケース1 Y.Hさん(初産婦・38歳)

初診:産後1月と15日

腰痛・肩こり・腱鞘炎・おっぱいが張り過ぎて辛い。乳腺炎になったことがあり、また再発するのではないかと怖い。赤ちゃんが反りかえり、向き癖もあり泣きやまない。「寝かせるとすぐに泣くので、何もできない。抱きにくいし、母乳の飲ませ方も指導してほしい」とパニック気味に話される。

母親にセルフケアを指導

【母のケア】乳房のチェック・母子ともに楽な授乳姿勢を指導。母親の全身を診て、腰痛、肩こりに対するテイクケアを行い、母親にセルフケアを指導する。すでに購入していたトコちゃんベルトⅡの着用指導。

【ベビーのケア】反り返りと向き癖が強く、テイクケアによりベビーの身体をほぐして整える。母親に「丸まる抱っこ」と、授乳用クッションを使った「丸まる寝んね」を指導。

2回目:8日後、1月と23日

【母のケア】トコちゃんベルトが正しく着けられているか、乳房のチェックと授乳姿勢の確認、セルフケアの確認と肩こりに対するテイクケアを行う。

【ベビーのケア】反り返りが減ってくる。身体が柔らかくなる。よく笑うようになり、訳もなく泣くことが少なくなる。丸まる抱っこと、丸まる寝んねの確認、スリングの装着指導。泣きやむまでの時間が短くなり精神的にすごく楽になったと話される。

3回目:14日後・2月と6日

【母のケア】張り過ぎていた乳房が柔らかくなり、とても楽になったと言われる。授乳中もベビーが反り返らなくなり、上手に落ち着いて飲ませることができるようになった。乳房も張り過ぎず、軽く楽になった。授乳姿勢が良くなり、腰痛もほぼ改善する。

【ベビーのケア】向き癖がほとんどなくなる。ニコニコすることが多くなり、機嫌が良くなった。抱っこもしやすくなり、良く寝るようになった。

4回目:5日後・2月と11日

ベビーマッサージクラスに参加。他の参加者と一緒に、ベビーの体操、マッサージなどを行う。スリングもスムーズに着脱できるようになり、他のママと笑顔で懇談。東京に帰るため、とりあえずケア終了。その後は帰省の際に来院されている。

ベビーマッサージクラス

このケースの場合は、1週間でかなり心身ともに楽になり、2週目には自信が持てるようになり、3週目には、友人から「初めての育児なのに余裕があるね」と言われたとうれしそうに話しておられた。

このように、産後沢山のトラブルを抱えて駆け込んで来たケースであっても、母とベビーの身体をそれぞれに整えセルフケアも自宅で継続して行うことができれば、短期間にトラブルが改善し、母子ともに健やかに楽しく母乳育児を継続できるケースが多い。

ケース2  S.Nさん(初産婦・26歳)

初診時の訴え: 妊娠15週に腰痛にて夫と共に来院。悪阻が酷かったが最近は少し落ち着いて来た。全身を観察し、全身へのテイクケアと、腰痛緩和のためのセルフケアを指導する。トコちゃんベルトⅡの指導。その後妊娠中3週間~1か月おきに3回ケア実施。テイクケアの途中、腹ばいで寝てしまうこともあり。腰痛が軽くなる。個人ケアの合間にマタニティークラスに3回参加。

38週にて無事に2630gの男児正常分娩。分娩所要時間は6時間で出血も少なめ。産後は母乳育児も順調で、体調も良好とのこと連絡あり。産後1か月半 産後の母子をケア。産後、ほとんど腰痛はなく、快適に過ごしている。母乳育児も順調で楽しい。抱っこや寝かせ方、授乳の仕方などを確認。

その後発達クラスに月1回、継続して3回参加。はいはいがバランス良くきれいにできるようになり、産後8か月でケア終了となる。

妊娠中の早期に来院し、継続したケアができれば、妊婦の身体の変化もアドバイスでき、気持ちの余裕を持って分娩に臨むことができ、その後の育児にも余裕が見られる。妊娠中から来院され、産後も継続して関わることができたケースは、母も子もトラブルが少なく、笑顔がたくさん見られる。

Ⅴ.妊娠中から産後への継続ケア

少人数クラスでの指導

当院では個別ケアの他に6~7人程度の少人数クラスでの指導も充実させている。グループで話題をシェアすることにより、他の妊産婦やベビーから学ぶことが多いからである。マタニティークラス(月3回)とベビークラス(月3回)を定期的に行っている。マタニティークラスでは、マタニティーヨーガ、骨盤のセルフケア、操体法などを行い、ティータイムには妊婦からの質問を全員でシェアする時間を持っている。ベビークラスでは、1か月~4か月対象のクラスと、5か月~8か月対象のクラスがあり、そのうち、ベビーの姿勢に問題のあるケースは、発達クラスの中で、作業療法士の竹内さんと一緒にフォローしている。詳細は竹内さんにお任せする。

Ⅵ.まとめ

産む力と子どもを育てる力を培うことは、短時間にできるものではない。できれば、産後にパニックにならないためには、妊娠初期からの継続ケアがぜひ望ましいと思う。 

妊娠中から自分の身体に責任を持ち、セルフケアを継続して行うことにより、妊娠中のリスクは下がり、出産時のリスクも自ずと少なくなると確信している。産後パニックにならないためにも、助産師は妊婦の守り神として、妊娠中のケアと指導に重点を置かなければならないと思う。本来ならば、妊娠する前から必要である。

最近では小中学校の授業にも関わらせてもらうことが増え、心と身体の両面から父性と母性を育てることに助産師として関わっていけたらと考えている。

富山で生まれ、子どもを産み育てて来た私だが、同じ郷土で出産し、子どもを育てている妊産婦が心身ともに元気いっぱいで、親子の笑顔が満ち溢れた富山県になるよう、これからも他の職種とのネットワークを強化し、活かし、頑張って行きたい。