第52回日本母性衛生学会総会・学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART8

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―デジタルで検証する骨盤輪支持法の安全性と効果―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題 トコちゃんベルトの安全性 ―縦型オープンMRを用いての検証―
滋賀医科大学大学院医学系研究科 博士課程 齋藤祥乃

演題 トコちゃんベルトの安全性 ― 縦型オープンMRを用いての検証 ―

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博士課程 齋藤祥乃

滋賀医科大学大学院医学系研究科
博士課程 齋藤祥乃

Ⅰ. 緒言

近年、妊娠期・産褥期のマイナートラブルに対するケアとして、骨盤ベルトの着用が普及している。骨盤ベルトは、骨盤を支持・固定する目的として開発されたものである(渡部, 2007) が、腰痛、骨盤痛だけでなく、子宮復古、子宮下垂・尿失禁の予防にも有効とされている。骨盤ベルトは実践でも用いられているとともに、効果の研究報告も増加している。

一方、産褥早期の上腹部の締め付けは、尿失禁や子宮下垂、将来の骨盤臓器脱を引き起こす要因であることも指摘されており(石川, 2003)、骨盤ベルトの安全性に関しては、十分に検証されていない。特に、着用部位の妥当性や、着用圧の安全性に関する検証が行われていない現状がある。

そこで我々は、以下の仮説について検証した。
1. 仮説1 「恥骨結合上での骨盤ベルト着用は、骨盤内臓器を下垂させない」
2. 仮説2 「骨盤ベルト着用は、分娩後の骨盤内臓器を下垂させない」
3. 仮説3 「ベルトの着用は安全である」

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象(表1)

1) 仮説1

研究対象は、経膣分娩の経験を有する年齢28 ~ 46 歳の一般女性とした。

2) 仮説2 ・3

平成22 年5 ~ 12 月に、滋賀県下の4 つの産科施設にて、正期産で単胎を経膣分娩した分娩後3 ~ 7 日の女性とした。さらに、研究期間中に継続して骨盤ベルトの着用が可能である対象を選定した。

表1.対象の属性

2. 実験用具

1) 骨盤ベルト

有限会社青葉製の「トコちゃんベルトⅡ®」(図1) を使用した。

①骨盤ベルトの着用部位

仮説1 : A ; 骨盤ベルト非着用、B ; 上前腸骨棘上、C ; 恥骨結合上での着用とした(図2)。
仮説2 : C ; 恥骨結合上での着用とした。
仮説3 : C ; 恥骨結合上での着用とした。

図1.トコちゃんベルトⅡ 図2.骨盤ベルトの着用部位
②骨盤ベルトの着用指導方法

研究者が対象者に対し骨盤ベルトの着用指導をするにあたり、トコちゃんベルト®の考案者に直接指導を受けるとともに、NPO法人母子整体研究会が開講する「妊産婦のための整体、基礎セミナー講習会」を受講した。着用指導の際には、研究者が作成したパンフレットを用いた。考案者によると、産褥期はトコちゃんベルトⅠが適しているとのことであるが、諸般の事情により今回の研究にはトコちゃんベルトⅡ®を使用することとしたため、着用ポイントを次のようにした。両足の親指を付けて八の字に開き、少し前かがみになりながら両膝をあわせること、床の重い荷物を持ち上げるような要領で、お尻の穴をギュッとひきしめ骨盤ベルトを巻くこと。

着用部位の再現性を確保するため、対象者ごとに紐を用いて骨盤ベルトの下端から床までの垂直距離を測定し、その長さの紐を配布した(図3)。着圧の再現性については、基本圧での着用となるように対象者ごとに固定幅を決定し、骨盤ベルトに目印を付けた( 図4)。

図3.着用部位 図4.恥骨結合上で圧計測
図5.携帯型接触圧力測定器パームQ
2) 着圧測定器

骨盤ベルト着用に際し、安全性と一貫性を確保するため着圧測定を実施した。測定用具は、ケープ社製携帯型接触圧力測定器「パームQ (品番:CR-490)」(図5) を用いた。着圧の設定は、10 ~ 15mmHg (以下, 基本圧とする) とした。


図6.レーザー微小循環組織血流計ALF21D
3) 血流計

骨盤ベルト着用による血流障害の有無を検証するため、下肢の血流変化をレーザー微小循環組織血流計「アドバンス社製, ALF21D」(図6) により測定した。


3. 評価方法

図7.縦型オープンMR
1) 縦型オープンMR

内子宮口および膀胱頚部の位置を客観的に評価するため縦型オープンMR (General Electric(GE) 社製0.5 テスラSIGNA SP/2) (図7) を使用した。

①撮影方法

縦型オープンMR を用いて座位における骨盤内臓器の矢状断面をスポイルドグラディエントエコー法によるT1 強調にて撮像した。

②MRI撮影時の留意点

MRI 撮影は、滋賀医科大学医学部附属病院内のInterventional Magnetic Resonance 室で行った。

撮影前には事前に、専門医による安全管理講習を受けた研究者が、オリエンテーションおよび副作用の説明、メディカルチェックを対象者に実施し、医師または専門のスタッフが撮影を行った。1 回の撮影時間は10 分程度であった。撮影日時は、対象者の都合を考慮して調整した。

③画像の評価方法
図8.膀胱頸部、内子宮口の計測方法

画像の評価には、アプリケーションソフトSP Image Browserを使用した。画像のうち恥骨、尾骨および膀胱頚部が最も鮮明なものを選し、恥骨下端と第2 尾椎を結ぶ恥骨尾骨ライン( P u b o c o c c y g e a l L i n e ,以下PC ラインとする)を基準とした膀胱頚部および内子宮口までの距離を計測した(Fielding, 2002 ; 図8)。計測に際しては専門医に指導を受け計測による誤差を最小とするため、専門医と計測値の一致を確認した。
また、計測による誤差は平均0.6±0.7 (最小0.1 ‐ 最大2.1) mmであるといわれているため(二宮, 2010) 1画像につき2度計測を行い、平均値を算出した。計測は全て研究者が一人で行った。

2) 骨盤ベルト着用による副作用の聞き取り調査

骨盤ベルト着用による副作用の発症について、対象者に対し研究者が聞き取り調査を実施した。聞き取りの時期は、分娩後1 か月、2 か月のMRI 撮影時に実施した。調査の項目は、「下肢のしびれ感」「下肢の冷感」「下肢静脈瘤」「圧迫感」「擦過傷」「疼痛」「搔痒感」「汗疹」の8項目とし、 各項目の有無を確認した。

4. 研究のプロトコール

1) 仮説1

A ; 骨盤ベルト非着用、B ; 上前腸骨棘上での骨盤ベルト着用、C ; 恥骨結合上での骨盤ベルト着用の3パターンでMRI 撮影を実施した。

2) 仮説2

MRI 撮影は、分娩後3 ~ 7日(以下、分娩後1 週間と示す)、1 か月、2 か月の3 時点とした。

3) 仮説3

対象者の骨盤ベルト着用の開始時期は、分娩当日から分娩後3日とした。対象者には、その後、2 か月間の継続した骨盤ベルト着用を依頼した。なお、着用は日中のみとした。

5. 分析方法

得られたデータは、統計パッケージソフトPASW Statistics18.0 for Windows を用いて分析した。 統計学的有意水準はp‹0.05 とした。 3 変数の比較には、それぞれWilcoxon signed-ranks test を行い、Bonferroni 法により調整された有意水準(α=0.05/2,α=0.01/2) にて判定した。

6. 倫理的配慮

本研究は、2009年12月22 日に滋賀医科大学倫理委員会において審査を受け、承認されたものである。対象者には、本研究の趣旨、研究参加により予測される作用・副作用、データの保護、権利保護、身体的・心理的配慮について、十分に説明を行い同意を得た。

Ⅲ. 結果

1. 仮説1 「恥骨結合上での骨盤ベルト着用は、骨盤内臓器を下垂させない」の検証

図9.骨盤ベルト着用部位による内子宮口の位置の比較

A ; 骨盤ベルト非着用、B ; 上前腸骨棘上での骨盤ベルト着用、C ; 恥骨結合上での骨盤ベルト着用における内子宮口および膀胱頚部の位置を比較した。結果を図9 に示した。結果、A ;骨盤ベルト非着用時に対し、C ; 恥骨結合上での骨盤ベルト着用時に、内子宮口の有意な拳上が認められた(p‹0.025)。しかし、A ; 骨盤ベルト非着用に対し、B ; 上前腸骨棘上での骨盤ベルト着用時では、有意な差はなかった。


2. 仮説2 「骨盤ベルト着用は、分娩後の骨盤内臓器を下垂させない」の検証

図10.分娩後各時点の骨盤ベルト着用の有無による内子宮口の位置の比較

分娩後の女性において、着用の有無による内子宮口および膀胱頚部の位置を比較した。結果を図10 に示した。結果は、内子宮口の位置は、分娩後1 週間において、2 時点に有意な差はなかった。同様に、分娩後1 か月においても、2 時点に有意な差はなかった。しかし、分娩後2 か月において、着用による有意な差が認められた(p‹0.01)。

また、膀胱頚部の位置についても分娩後1 週間において、2 時点に有意な差はなかった。同様に、分娩後1か月においても、2時点に有意な差はなかった。しかし、分娩後2か月において、着用による有意な差が認められた(p‹0.01)。

3. 仮説3 「ベルトの着用は安全である」の検証

1) 骨盤ベルト着用による血流障害

安全性の検証として、骨盤ベルト着用による血流障害の有無を検証した。基本圧10 ~15mmHg で骨盤ベルトを着用し、その後15分、30分、1時間、2時間、4時間における下肢の血流変化を測定した。その結果、全ての測定時間において微小循環組織血流量の減少は認めず、着用による血流障害は生じないことを確認した。

2) 骨盤ベルト着用による副作用
表2.骨盤ベルト着用による副作用の発症数 n=30

実験期間中の骨盤ベルト着用による副作用の発症数を表2 に示した。
着用群の分娩後1 か月、2 か月の時点において「下肢のしびれ感」「下肢の冷感」「下肢静脈瘤」「圧迫感」「疼痛」は認められなかった。

一方、「擦過傷」「搔痒感」「汗疹」では、それぞれ1~ 2 名の者に発症を認めた。この対象者は、骨盤ベルトを下着の上からではなく、直接身体に着用していた。

Ⅳ. 結論

1. 恥骨結合上での骨盤ベルト着用は、内子宮口および膀胱頚部を下垂させず、むしろ挙上させることが示された。

2. 分娩後の骨盤ベルト着用は、分娩後1週間、1か月、および2か月のいずれの時点においても、内子宮口および膀胱頚部を下垂させないことが示された。

3. 骨盤ベルト着用による血流障害は認められなかった。また、骨盤ベルトを下着の上からではなく、直接身体に着用した場合には、副作用が認められた。以上のことから、骨盤ベルトの安全性の確保に関しては、基本圧の保持と下着の上からの着用が必要であることが示された。

Ⅴ. 今後の課題

今回の研究では、初産婦と経産婦を同様にまとめたが、今後は、初経別や年齢による比較をする必要があると考える。

Ⅵ. 謝辞

骨盤ベルトの着用方法を指導するにあたり、トコ・カイロプラクティック学院学院長の渡部信子様には、直接のご指導をいただき深く感謝いたします。

滋賀医科大学、尿失禁プロジェクトのメンバーの森川茂廣先生、遠藤義裕先生、岡山久代先生には、ご指導いただき御礼申し上げます。

なお、本研究は、骨盤ベルトの研究助成金(有限会社青葉) を受けて行った研究の一部である。
また、本研究の一部は、16thISPOG で発表したものである。

参考文献

  • 合阪幸三, 土居美佐, 秋山純子, 他(2003). 妊産婦の腰痛, 恥骨部痛に対する腰腹部固定帯( トコちゃんベルト®) が有用であった症例. ‐ 産婦人科の実際,52(2),261-263.
  • 江崎美津子, 大島玲子, 大森清子(2010). 妊婦の骨盤由来の症状に対する骨盤輪固定の有効性. 佐賀母性衛生学会雑誌,13(1),20-22.
  • Fielding,J.R.(2002).Practical MR imaging of female pelvic floor weakness.Radiographics,22,295-304.
  • 石川弥生(2003). 褥婦の体形の回復に関する認識と実態調査. 神奈川県立看護教育大学校,28,332-338.
  • 中田真木(2009). 妊娠・出産と骨盤底弛緩. 助産雑誌,63(8),678-682.
  • 二宮早苗, 斉藤祥乃, 正木紀代子, 他(2009). 女性の腹圧性尿失禁に対するサポート下着の効果―着用と非着用時の膀胱頚部の位置と尿失禁の程度の比較―. 母性衛生,50(3),175.
  • Rogers,J.,Wilson,L.F.(1975). Preventing recurrent tissue breakdowns after "pressure sore" closures. Plastic and Reconstructive Surgery,56(4),419-422.
  • 渡部信子(2007). 骨盤ケアでトラブル解消!トコちゃんのマタニティケア・ハンドブック( 第5 版). 大阪: 有限会社青葉.