第54回日本母性衛生学会総会・学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART13

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―骨盤ケアとのコラボ技を身につけ、あなたも"安産誘導師"に!―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1  ヨガと操体法を組み合わせたトコヨガで、お産力を高めよう!
お産が楽しくなるトコヨガクラス

トコ・カイロプラクティック学院ケア師1級
ヨガインストラクター 助産師 吉川 元子

演題2  体操しようとしない産婦にも使える安産体操
― "難産候補妊婦"の入院から分娩までのケア ―

トコ・カイロプラクティック学院准講師 助産師 上野 順子

演題1 ヨガと操体法を組み合わせたトコヨガで、お産力を高めよう!
お産が楽しくなるトコヨガクラス

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助産師 吉川元子

トコ・カイロプラクティック学院ケア師1級
ヨガインストラクター
助産師 吉川 元子

Ⅰ. はじめに

分娩時、胎児に酸素を供給できるのは、産婦自身である。呼吸法がうまくできず、それが原因の一つと考えられる胎児機能不全によって、吸引分娩や帝王切開となるケースが増加している。そんな人は、妊娠中から呼吸がつらくて、腹部はカチカチである。せっかく母親教室やヨガクラスで習ったことも分娩時にうまく使えず、産後も腰痛・尿漏れ・オッパイトラブル・腱鞘炎などに悩む人が多い。そんな人には、外来や教室などで短時間で教えられ、効果の高い「トコちゃんヨガ(通称トコヨガ)」を、ぜひともご紹介したい。

Ⅱ. 今なぜ、操体法を取り入れた「トコヨガ」が必要なのか?

1. マタニティヨガの効果

ヨガは、呼吸を安定させ新陳代謝を活発にし、心身ともにリラックスさせるだけでなく、自分を見つめる機会(内観・内省)、また自分を感じ取る力を呼び覚ます能力を高めるのに役立つ。つまり、ヨガには本来人間に備わっている生きる力を高める効果があり、妊娠中のヨガの実践は、妊産婦の心身両面の健康増進に役立つのみならず、妊娠・分娩・育児に関する本来人間に備わっている能力を高める効果がある。

私がヨガを始めたきっかけは、18年前、分娩後3年間の保育園勤務で、人生初めての腰痛を患ったときであった。夫の転勤でつくばに移り、パート助産師をしながら近所のヨガサークルに参加して広池ヨーガを始めたところ、なんと3ヶ月で腰痛が嘘のように無くなった。この時、もしかしたら妊産婦の腰痛や恥骨痛も、ヨガで良くなるのではないかと直感した。その後マタニティヨガを習う機会を得て、自分でヨガ教室を担当するようになり、「ヨガで腰痛などの不快症状は改善する」は確信となった。

ヨガを毎日練習した人は、腰痛などの不快症状が改善するだけにとどまらない。腹式呼吸による呼吸法でリラックスできるようになると、痛みを乗り切りやすくなる。胎児にも十分な酸素を供給することができるので、胎児機能不全に陥るリスクも低下する。さらに、身体を柔軟に保つことができれば、分娩時もスムーズになることが期待される。

2. ヨガだけでは短期間で効果が出なくなった戸惑い

しかし、教え始めて3年、5年と経つうちに、腰痛に効くポーズを教えたくても、「胡坐になれない」「仰向けになれない」「手も上げられない」などヨガのポーズそのものも、うまくできない人が年々増加するようになった。その原因がわからず、ヨガだけで安産できる身体を作ろうと頑張っても、時間がかかるばかりで、身体作りが間に合わず、産後のアンケートでは「呼吸法やリラックスもできなかった」との意見が増え続けた。

そんな折、2003年、渡部信子氏と出会い、「そうだったのか!」と衝撃が走った。(皆さんが受けた衝撃と同じ感覚です)。近代的で便利な生活がもたらした筋力の低下や、靭帯の緩みからくる妊婦の姿勢や骨格の変化によって、ヨガの効果が発揮できなくなっている状況を理解できた。ヨガがうまくできないほど身体に原因があるならば、「ヨガに骨盤ケアと操体法を取り入れてしまえば良い!」と私はまた直感した。そこからヨガと骨盤ケアのコラボクラスが始まった。

予想通り、ヨガと骨盤ケアのコラボは大成功。短期間で腰痛・便秘・夜間頻尿・尿漏れなどの妊娠中のマイナートラブルが改善された。リラックスして安定した心で分娩した人は、育児への自信と喜びをいっそう深め、育児を楽しむ様子も、以前のようによみがえってきた。

3. ヨガのできる身体作りこそ重要

しかし、年々受講する妊婦の身体は悪化の一途を辿っていき、留まる所を知らない。妊娠中にヨガに通えるのは、せいぜい1~3ヶ月。そんな短期間で妊娠・分娩・育児に適した身体作りを行うには、「ヨガができる身体作りこそが大切ではないか」と考えるようになり、そこに焦点を当てたトコヨガクラスを始めた。

今回は、そのようなクラスの中でどのように指導すればいいかについて、解剖学的な視点を含めて解説する。

Ⅲ. 分娩には、自分の身体の声を聴く力が鍵

分娩に必要な力が「お産力」だとしたら、私はまず、「自分の身体の声を聴く力」これが分娩力のキーポイントだと考える。「なぜ自分の身体の声を聴く力が重要なのか?」について、以下に説明する。

1. リラックスと呼吸法は練習が必要

今日は、自分の失敗談をご紹介する。約20年前、私は母親教室で毎月「リラックスと呼吸法がお産には大切ですよ」とお話し、「ヒッヒッフー」と呼吸法を教えていた。実はその頃、私は妊娠中だった。でも、私自身は呼吸法の練習を全くしなかった。「いつも教えている私なんだもの、呼吸法なんて簡単よ」と高をくくっていた。ところが、いざ分娩になると「呼吸が苦しくて苦しくて、リラックスなんて無理!」という恥ずかしい体験をしてしまい、猛反省。

リラックスと呼吸法、これは練習をせずにできるものではなかった。

2. リラックスがわからない現代人

でも、どうしたらリラックスは覚えられるのだろうか? 実は、近代的生活をしている私達は、常に頭でものを考えることを優先し、理屈でのみ思考しようとする。なので、自分が緊張していることすら気付いていない人は、「リラックスして下さい」と言われても、どうしたらリラックスできるのかわからず、リラックスの状態がどのような状態かもわからない。

試しに、頭を空っぽにして、呼吸に集中してみよう。吐く息に集中してゆっくり吐いてみると、それだけでも、意外に気持ち良くなる。その「気持ちいい状態」、それこそがリラックスしている状態である。そして、それは操体法の脱力と同じ感覚でもある。

環境的な負荷が何も加わらない状況ならば、誰もがおそらく「気持ちいい状態」を感じ取れるであろう。しかし、実際の分娩の場面では、陣痛という物凄いストレスと、緊張と孤独が待っている。そんな状態でも、普段通りの気持ち良さを味わうためには、何度も何度も、どんな状況でも練習をして、体に覚えさせる必要がある。

皆さんも小学生時代、運動会や学芸会の前は「どれだけ練習させられるのか?」とウンザリするくらい、何度も何度も練習した経験があることだろう。音楽が流れたら自然に身体が動くまで練習を重ねる。すると本番の緊張はむしろ心地よく、終わった後の達成感は、すがすがしく、うれしい体験となったのではないだろうか。

リラックスと呼吸法の練習も同じで、何度も何度も練習して「自分の身体の声」、つまり「気持ち良い」「心地よい」という快の感覚を聴きとれるようになることが大切である。

3. リラックスの状態がわかり、身体の声が聴ける身体作りは、安産への近道

図1:操体法前後の変化

繰り返し操体法や骨盤ケアを実践して、腹部の形が、ふんわりした丸型になる頃には、体操を始める前の便秘や夜中のトイレなどの不快症状が、改善されていることに気が付く人が多い。

右に、実際にクラスに参加した妊婦の写真をご紹介する。クラスでは五つの操体法を実施したのみであるが、その前後の腹部の変化は歴然としている(図1)。

Ⅳ. 呼吸法とリラックスの効果と実際

1. お産の不安や怖さが陣痛を強く感じさせる

プラスイメージ例、マイナスイメージ例

私は、ヨガクラスで「お産に対するイメージを、感情を表す言葉で表現して下さい」という質問をよくする。

「怖い」「痛い」「辛い」「未知なものに対する不安」こうした自分自身を脅かすような感覚を感じ取る時、身体の筋肉は緊張し、血管が収縮し、呼吸は早くなり、手足などの末梢が冷たくなり、内臓の血液循環が悪くなる。つまり、交感神経が優位な状態となる。そうなると、人間の身体は、知覚神経が過敏となり、陣痛を過剰に痛く感じるようになる。

逆に、副交感神経が優位な状態は、筋肉は緩み、血管は弛緩し、呼吸は深くなり、手足などの末梢は暖かくなり、内臓の血液循環が良くなる。そうなると、陣痛を心地よい収縮と感じるようになる。

手をつまんでみよう!(手の平を開いてつまむ=リラックス状態、グーにしてつまむ=緊張状態)*1)

つまり、陣痛に対しての不安が強ければ強いほど、陣痛を強く感じてしまう身体の不思議な仕組みがある。

2. 副交感神経が優位になると、妊娠子宮・分娩にどんな影響があるのか?

1) 血液循環が良くなる

副交感神経が優位になると筋肉や血管が弛緩するので、手足のような末梢に血液が十分行きわたり、胎児に十分な栄養と酸素を送ることができる。妊娠子宮は身体の中央に位置しているため、子宮が末梢であると認識している妊婦はほとんどいない。しかし血管の走行を考えれば、胎児の脳や四肢の末端は、妊婦のつま先よりも遠い距離に位置することがわかる。

分娩時、子宮筋肉が繰り返し収縮するのが陣痛である。陣痛が来ると当然、胎児循環が悪くなるため、陣痛が強くなればなるほど、胎児の酸素飽和度は低下する。そして、徐脈の出現に伴い、産婦の体位を変化させたり、酸素供給などの処置が必要となる。しかし、酸素を母体に供給しても、産婦が深い呼吸をして肺胞に酸素を送り込まなければ、肝心な母体の酸素飽和度は上昇せず、胎児に十分な酸素を送り届けることができない。逆に、産婦が深い呼吸をして肺胞に酸素を送りこむことができれば、胎児に十分な酸素を送り届ける条件が整う。

2) 分娩時の進行を良くする

子宮筋は不随意筋であるが、体幹部の内臓を支えているインナーマッスルである腹横筋や骨盤底筋群は、陣痛の痛みで身体が緊張すると収縮する働きがある。つまり「痛~い!」と全身を緊張させていたら、分娩の進行を阻害してしまう。逆に、陣痛が来たら深い呼吸をして、リラックスすれば副交感神経が優位となり、子宮頚管の緊張がほぐれ開大しやすくなる。また、陣痛発作時は子宮筋が収縮するので、胎児への酸素供給が低下する。胎児機能不全の予防対策として、陣痛発作時は深い呼吸をし、陣痛間欠期は十分リラックスして身体を動かすことが大切である。

● つまり、深い呼吸とリラックス=副交感神経を優位にする効果的方法。

3. 不安を取り除くには?

未知なものに対する不安を取り除くには、以下のことが重要である。

① 不安(妊娠・分娩)の本体を知るために、妊娠・分娩の本を読み、知識を深める
② 病院任せのお産ではなく、自分なりのお産のビジョンを描き、主体的に分娩に臨む意思を持つ
③ 妊娠・分娩に伴う身体の変化への対処法や、自分の描いた分娩ができるように、
具体的に何をすればいいかを考える
④ マタニティヨガ・マタニティスイミング・マタニティフラなど自分に合った身体作りを実践する

自分の身体で何度も何度も実感する経験の積み重ねは、分娩に対するイメージを大きく変えることとなる。なぜなら、自分の身体の変化を実感することは、その経験自体が自信となるからである。

● 自分のお産を考えて主体的にお産に取り組む姿勢もお産力
● 体操を毎日行うことが不安を取り除く一番の近道

4. 呼吸法ができない理由

図2:肋骨弓

吸気時、横隔膜が収縮し肋骨が上がり、胸郭が広がって肺に酸素が入る。呼気時、横隔膜が緩み肋骨が下がって、胸郭が狭くなり二酸化炭素が出ていく。

脊柱のS字状湾曲がある人は、深い呼吸をしなくても肋骨は前に出て胸郭が大きく、肋骨弓は富士山のような形をしている(図2)。このような人は、腹式呼吸をするだけで肋骨も自然に動き肺にしっかりと酸素を取り入れることができる。

しかし、S字状湾曲が無いフラットバックの人や、さらにはステゴザウルスのように脊柱の棘突起が突出しているような人は、肋骨が下がり、肋骨弓は東京タワーのような尖がった形となっている。そのため、横隔膜や肋間筋がカチカチに硬くなっているだけでなく、骨盤底筋群や腹横膜、腹斜筋、腹直筋、腸腰筋など、体幹を支える筋肉がことごとく凝り固まった状態となっていて、腹式呼吸をしようとしても、肋骨の動きは著しく低下する。

5. 実際の呼吸法の改善策

ポイントは二つ。まずは、骨盤輪支持*2)、腹筋支持をすること。次に、操体法(挙手・尻尾探し・ネコのポーズなど)を行うこと。呼吸法で大切なのはしなやかな脊柱の動き、中でも、腰椎の動きが肝心である。そのためには、緩み過ぎの骨盤や腹部を、まずは安定させる必要がある。

呼吸に伴う骨盤・腰椎・骨盤底筋群・腹筋群・横隔膜の動きの関連を説明すると、
吸気時・・・骨盤の前傾とともに腰椎は前彎し、骨盤底筋群や腹筋群が弛緩、横隔膜は収縮する。
呼気時・・・骨盤の後傾とともに腰椎は後彎し、骨盤底筋群や腹筋群は収縮、横隔膜は弛緩する。

図3:挙手の操体法

呼吸をしやすい身体作りに有効なのが、ネコのポーズである。これは単に背中を丸くしたり反らせるという運動ではなく、骨盤の傾斜運動である。背中を丸めることに意識が行くと肩や首が凝ってしまったり、背中を頑張って反らそうとすると腰が痛くなったりする。これでは、意味がない。骨盤の傾斜の動きを意識して、骨盤を後傾させると自然に頭が下がり、背中は自然と丸くなる。逆に天井を見るように意識すると、背中には気持ちの良い反りができる。

他にも、尻尾探しの操体法や挙手の操体法(図3)も、腰椎の左右の側屈を促し、腰方形筋や腹斜筋が柔軟になる。すると、骨盤底筋群・腹筋群・腸腰筋などもしなやかに動くようになり、横隔膜や肋骨が連動しやすくなる。また、上体ひねりの操体法や肩上げの操体法、肩回しなどの体操を行うと、肩甲骨や鎖骨の動きが良くなり、肋間筋が動きやすくなる。

Ⅴ. まとめ

心と身体は一体となっているため、心が緊張しても身体が緊張しても、副交感神経を優位にすることは難しい。また、姿勢が悪く骨格がゆがんでしまった現代人の筋肉や靭帯は、緊張と弛緩が入り混じっているため、そのままでは分娩時に十分な酸素を取り込むことができない。そんな現代人の安産への近道は、呼吸法や操体法などのケアを毎日行い、身体のリラックスを体感できる体を作り、お産力を高めていくことだと言えよう。

参考文献

  • 森田俊一『妊婦のためのヨーガ 妊娠・分娩を楽にする体操』 メディカ出版 p145
  • 「トコちゃんのマタニティケアハンドブック」 有限会社青葉