第54回日本母性衛生学会総会・学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART13

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―骨盤ケアとのコラボ技を身につけ、あなたも"安産誘導師"に!―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1  ヨガと操体法を組み合わせたトコヨガで、お産力を高めよう!
お産が楽しくなるトコヨガクラス

トコ・カイロプラクティック学院ケア師1級
ヨガインストラクター 助産師 吉川 元子

演題2  体操しようとしない産婦にも使える安産体操
― "難産候補妊婦"の入院から分娩までのケア ―

トコ・カイロプラクティック学院准講師 助産師 上野 順子

演題2 体操しようとしない産婦にも使える安産体操
― "難産候補妊婦"の入院から分娩までのケア ―

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助産師 上野順子

トコ・カイロプラクティック学院准講師
助産師 上野 順子

Ⅰ. はじめに

私は助産師になってちょうど30年。新人時代は5年ほど都立病院に勤め、その後、夫の仕事の都合で青森県八戸市に帰った。ちょうどその頃、開業準備中の個人病院があり、そこに就職した。2007年に初めて骨盤ケアセミナーを受けたが、そこで学んだ体操や技術は、勤務していた医院の「歩かない、体操しようとしない妊産婦」に、そのまま使うことはできなかった。そんな産婦でもできるよう、アレンジしながら活用していたところ、スムーズなお産が増え、出血も少なくなり、私にとって骨盤ケアは、なくてはならない技術となった。

ところが、その医院が分娩の取り扱いをやめることとなり、今年の3月末で退職した。23年間勤めた職場を失った私に「アンタの開発したアレンジ技を、全国の助産師に教えて!」との渡部信子先生の“ツルの一声”がかかり、トコ企画主催の「順子姉さんの安産誘導セミナー」の、講師を引き受けることとなった。

今日は、難産候補産婦でも、入院から分娩までにやればなんとか安産に誘導できる、検査とケアについてご紹介する。

Ⅱ. 出産年齢の女性の成長期の背景

地元青森県八戸市では、高校を卒業したらすぐに車の免許を取り、車は大人1人に1台が当たり前。自宅から小学校まで、親が自家用車で送迎することも多く、小学校の遠足は、目的地までほとんど歩かないバス遠足。そして、ゆとり教育で体育の時間が削られた。脱ゆとりになった後も体育の時間は減ったままだ。小学校では体力作りのために早朝マラソンや、縄跳び競争があるが、頑張る子は頑張るけどやりたくない子はやらない。頑張ってもできない子と、やればできるのにサボっている子の区別ができないので、ペナルティなしで体力作りをしないまま育つ。

そして妊娠。ここで体作りをするべき時にサボっていたツケを払うことになる。妊娠する前から骨盤はゆるゆる。すぐにでも3kgの赤ちゃんを産めるくらいゆるゆる。元気な妊娠生活を送れるはずがない。

Ⅲ. 妊娠中の生活

八戸の妊婦は歩いて5分のスーパー、3分のドラッグストアにも車で行く。人によっては道路を渡ってすぐのコンビニにさえ、車で行く。

妊娠に気づいて、無理しないように気をつけ始めると、もっと歩かなくなる(図1)。そうやって動かないように、動かないようにしているうちに、歩く体力がさらに無くなる。立っているのがしんどいどころか、座っているのもしんどい。寝ていてもしんどい。

図1:妊娠中の生活

「座っていてもしんどい」のあたりで「切迫早産疑い」の診断がつき、「安静に」の指示や「就業不可」の診断書が出る。安静の間に、体重もうなぎ登り。15kg増は当たり前、20kg増もザラ、筋肉が落ちて体重が増えるから、我が身を支える筋力が追いつかず、ますます動かなくなり、動けなくなる。でも、時期が来れば、体の準備をしていなくても陣痛は来る。こんなことでは、安産できる要素が見当たらない。

Ⅳ. 入院時の妊婦の現状

1. 入院時から既に動こうとしない産婦

寝姿で分娩の進行が滞ると予想できるので、「ちゃんとお産できるように陣痛が来てても体操をしましょう」と、体操の仕方を説明すると「仰向けで寝ると仙骨が当たって痛い」「寝返りすると腰が痛い」「四つんばいは手や手首が痛い」「私、股関節が硬いんです」「お腹が痛くて動きたくないです」と言われる。

お産の最後は、脚をしっかり開いて上手に努責を入れてもらわなければどうにもできないし、帝王切開するにしても、腰椎麻酔しようにも、その姿勢ができないくらい硬くなっている。産むも大変、切るも大変。

痛がらせないように細心の注意を払って内診しても、指を入れた瞬間に脚を閉じ、上に逃げられては先が思いやられる。

2. 体の曲がり癖は、骨盤(産道)が曲がっている証拠!

人は腹痛時には体を丸め、捻じったりする。モニター検査時、内診する時、ベッドに横になっている時、きれいな姿勢で寝ている人でも、陣痛が来ると曲がり、捻じれていく。すでに「曲がり捻じれている人」は、陣痛が来るとさらにその人の体の癖が顕著となる(図2)。

図2:曲がり捻じれた姿勢、図3:ウォータースライダー

自分では、体を曲げたり捻じっている自覚がないので「体をまっすぐに!」と言われても、「自分はまっすぐなのに…」と思っている。

骨盤誘導線は教科書の様なきれいなカーブではなくなり、ウォータースライダーのような、捻じれたカーブになっていく(図3)。ウォータースライダーと違って骨盤には凸凹があり、そこに胎児がひっかかる。母は痛いし児も苦しい。

Ⅴ. 分娩の三要素と骨盤ケアの三原則

分娩の三要素は図4のとおり、娩出物・産道・娩出力。体の曲がり捻じれ癖は、産道を曲げて捻じり、胎児の胎位・胎向・胎勢を悪化させ、微弱陣痛や分娩の遷延を招く。痛がり方は「過強陣痛」でも実際は「微弱陣痛」。なので本来ならば妊娠中から骨盤ケアをして、体を整えておく必要があったのだ。

骨盤ケアの三原則は「あげる ささえる ととのえる」(図5)。どれも大事だが、今回は分娩時の「ととのえる」に絞って話を進める。

図4:分娩の三要素 図5:骨盤ケアの三原則

Ⅵ. 「骨盤を整える=体操」の必要性

図6:骨盤がゆがむと

分娩中は「入院→分娩→分娩後」と体操をし続けなければならない。でなければ、「曲がり捻じれ癖」でどんどん安産から遠のいてしまう。「陣痛で痛い時に体操を続けてもらう」ということになるので「痛いのに動けと言った。意地悪な人」ととられることも多々あるが、ジッとしていてはゆがんだ骨盤は整わないし、不正軸陥入・回旋異常は直らない。ただただ、吸引分娩や帝王切開の時期を待っているだけになる。悪者になってでも、その人の「今するべき体操をタイミング良く指導する」ことが大事。

図6の様な丸くない骨盤入口面では、不正軸陥入になり、骨盤の余計な凸凹に児頭はぶつかって引っかかり、児頭の圧迫は早くから起きearly deceleration(早発一過性徐脈)が繰り返し出現し、骨盤が丸くなるまで続く。児頭の下降は悪く、降りてきても、低在横定位になりやすい。

早い時期に骨盤を丸くする体操をしてそれらを予防するか、低在横定位になったと気づいてから、体操を始めるか。何もしないで、吸引分娩できるところまで下がってくるのを待つか、待ってもダメで帝王切開になるか。凸凹が改善され、回旋が良くなる様に体操をすれば、産まれないほどの回旋異常は、回避できる可能性も出てくるし、心音が悪化しなければ待てる。

たとえずっとそばに寄り添い、腰をさすってあげていても、骨盤を丸くしないで“待つお産”はただの“放置”。骨盤ケアで丸い骨盤にすることで、産婦も胎児も元気な状態をキープできて、安心して“待つお産”に取り組めると思う。

Ⅶ. 分娩時の骨盤ケアの流れ

図7:レオポルド胎児触診法
検査
レオポルド胎児触診法(図7):
胎児の胎位・胎向・胎勢・・・斜めになっていないか
股関節の可動性の検査:お産の時足を開けるのか
アイテム
フェイスタオル(結び目を作る=タオル玉)
体操
上半身:挙手の操体法 体側伸ばし 脇縮め 上体ひねり(さすりながら)
下半身:下肢上下 → 膝持ってクルクル片足バージョン → 両足バージョン(タオル玉)
全身:お尻フリフリ片手伸ばし
深呼吸のために:さする タオル体操
その他
陥入がうまくいかないで下がりすぎていたら、骨盤高位で仕切り直し
分娩体位を取る時の注意
無理に脚を横に開かない
児頭が下降し、排臨近くなったら、膝を閉じる方向に脚を動かす(坐骨間を広げる)
産後
出血を少なく・後陣痛対策・子宮下垂対策
子宮底の輪状マッサージは、子宮を押し下げない 子宮を引き上げ、骨盤輪支持

1. 大事な検査 レオポルド胎児触診法

モニターを着ける時は、お腹の形を診て、きちんと触診し、今の胎児の姿勢をイメージすることが大切である。骨盤ケアに出会う前の私は、心音が拾えれば良し。「児背はどっちかなー。はい、当たりー、ラッキー!」程度だった。

図8:よい胎勢、図9:良くない胎勢
図16:お尻フリフリ片手伸ばし
図10:お腹の形と胎勢

今は「児背はどっちかなー」の後「背中が丸くなってるか、まっすぐか」「背中が前を向いてるか、後ろを向いてないか」くらいは診るようにしている。分娩がどの辺で進まなくなるか予想しやすくなった(図8.9)。

子宮底にお尻は触れるのに、児背の硬さが触れなかったら顔は前を向いている。内診ではまだ小泉門・大泉門を判別できない児頭の高さでも、第二回旋の異常を予測できる。毎回エコーで確認している病院もあると聞くが、手でわかれば、それに越したことはない。第二回旋の異常も「お尻フリフリ片手伸ばし体操」で改善できることが多い(図16)。

腹の形も観察。丸いのか、縦長か、横長か、斜めにゆがんでいるのか。丸いお腹は取りあえず合格。縦長は半屈位になりやすいので、頭頂部や大泉門が先進しやすい。斜めのお腹は、横座りで座るクセのせいで、いつも子宮が片方の肋骨と骨盤に圧迫されて縮んでいた証拠。陣痛の間も同じ姿勢で過ごすので、児頭は骨盤入口面に対して、斜めに陥入してくる。不正軸陥入になるか、もうなっている。

お腹の外診は仰臥位でだけでは不十分。立位で、横から見ることも大切。モニターをはずして、立ち上がった時、必ずお腹の形を見て、尖腹(図10)ならば対策が必要。胎児が前に倒れすぎていて、児の軸を縦にしないと恥骨にぶつかり、降りてこない。→「お尻フリフリ片手伸ばし+さらし」

2. 股関節の検査

分娩体位を取った時に「今、大事なとこだから脚を開いて」と、閉じてくる脚と格闘しながらの分娩介助は体力を消耗する。吸引カップを入れる時に、腰を振って逃げられて、院長は「心音も回復したみたいだから、まだ待てるね。後は自然にがんばりましょう」そう言って、私の肩をポンポンとたたき、分娩室を出て行ったこともある。その時はいろいろやって、何とか自然分娩できたが…。入院時でさえ「動きたくない」産婦に、一番痛い時に体操をしてもらわなくてはならないなんて、たまったものではない。

図11:股関節検査で分娩を予測

そこで私は入院時に、お産がスルスルと進むのか、引っかかるタイプなのか、股関節の動きの簡単な検査で判別することにしている(図11)。ここまで膝が上がれば、お産できる。上がらなければ「お産が途中で進まなくなるから体操しましょう」と体操をする理由を説明。

3. 入院時のモニター中に体操開始、そして続ける

モニターをつけている間、体操の指導はできる。カルテの作成、バイタルの記入、入院台帳の記入、点滴の準備… ほとんどの仕事を産婦のそばで行いながら、同時に「お産しやすくする体操」を指導できる。そして「モニター中=ジッとしている」じゃない「体操の時間だ」と話す。ジッとしているとお産は進まない。モニターのたびにお産の進行が悪くなってはお産が長引く。それを予防する。

4. 上半身の操体法「捻じれ癖」対策

挙手の操体法・体側伸ばし・脇縮め、上体ひねりを組み合わせて。これでお腹の余分な緊張が取れるし、捻じれ癖が改善する。臥床していてもできる。妊娠中であればこの操体法を毎日繰り返してもらって調整していくのだが、分娩時は数時間で結果を出さなければならない。動きにくい方をさすりながら行うことで効果を大きくする。

5. 骨盤・股関節の調整

図12:骨盤

妊娠中から出産時にかけて恥骨結合、仙腸関節、腰仙関節、仙尾関節は連動して大きく動く(図12)。だが、今の歩いていない妊婦は「動く所はゆる過ぎ、動かない所はビクともしない」人が多く、連動して動かない。動かない所が骨盤まわりにあるのでは、お産に支障が出る。骨盤を「お産できる形にする」だけでなく「お産できる動きもできる様に」しなければならない。

6. 仙腸関節の可動性を良くする「下肢上下」

図13:下肢上下の体操

これは「ファーストチョイス」の体操。脚を伸ばしたまま上げたり下げたりするだけだが効果は絶大。動くところは仙腸関節である。(図13)

7. 股関節の開大がしやすくなる「膝持ってクルクル」

図14:膝持ってクルクル体操

片方の膝を持って、小さく円を描くようにクルクル(図14)、反対側も同じようにクルクルする。次に両膝を抱えて、クルクル。この体操はモニター中でもできる。心音がひろえなくなることは心配するほどはない。ジッとしていてもずれる時はずれるので、モニター中だからとジッとしてるのを強要する必要はない。股関節の動きが良くなったとたんに、お産が進み始める。

8. 膝に手が届かない妊婦・産婦には「お尻にタオル玉」

図15:タオル玉を当てる位置

ほぐしアイテムはタオルの結び目(タオル玉)。フェイスタオルを2本用意し、両端を結ぶ。当てる場所は図15の ① ② ③ 。妊婦・産婦には「仙骨や尾骨の横に痛いところがあるからそこにタオル玉を当てて」と説明すればOK。当てたまま体を上下左右に揺すったり、ゆっくりと膝倒しを。

9. お尻フリフリ片手伸ばし

入院時モニターを終了して、自室へ移動の前に、もう一つ体操指導。部屋に行っても、寝ていないで「膝持ってクルクル」と「お尻フリフリ片手伸ばし」(図16)を繰り返すように。

図16:お尻フリフリ片手伸ばし

お腹がぶら下がることによって、胎児の背中が前に向きやすくなり、第二回旋の異常(後方後頭位や低在横定位など)を早めに予防できる。ただし、改善する時間は人それぞれ。早くて30分。2時間かかることも。「痛いから動きたくない」では、進まない痛みで母児ともに無駄に体力を消耗していくばかりである。背中が硬くてしっかりと腕が伸ばせていない場合は、胸郭が上がらず、児頭が十分に上がらないので「お尻フリフリ」の前に「ネコ体操」や「タオル体操」をすると良い。

10. 分娩体位

図17:分娩体位 膝を閉じる体位

分娩の進行が悪い時に「マックロバーツの体位」が良いことは知られている。そもそも「一般的な分娩体位は、分娩の進行に良い体位なのか?」との疑問を抱いていた。痛がって足を閉じるたびに、産婦の動かしやすい方に膝を誘導したらツルンと産まれた。それを何度も経験した。横に広げるのではなく、お腹側、上に押し上げる。坐骨に引っかかる場合は、膝を閉じたままぐっとお腹に近づけ、膝を内側に倒すと、坐骨が広がる(図17)。片足ずつでも効果がある。

11. 胎盤娩出時~後

子宮底の輪状マッサージで子宮を下げていないだろうか? お産ですでに下がっている子宮を押し下げるのではなく、むしろ押し上げながらの胎盤娩出。その後も、押し上げながら子宮のゆるい場所を見つけてマッサージする。数年前までは「骨盤高位と骨盤輪支持」だけで有効だったが、妊娠中ずっと下がり気味の人が増えてからは、それだけでは間に合わなくなり、積極的に引き上げる様にした。すぐに出血が止まる。ただし骨盤輪支持なしでは、その状態は長く維持できないので、さらし、健美ベルト、直後ケアベルトなどで骨盤輪支持をする。

分娩直後、外陰部がすごく腫れて、膣が開いたままの状態を見たことはないだろうか? それも子宮をグーッと引き上げることで、すぐに引っ込み、痛みや圧迫感が軽減する。尿閉も減った。1日経ってからでは、組織がむくんでしまうので、お産直後ほど劇的な効果はないが、子宮を引き上げると外陰部の痛みは軽減する。

お産後は「痛いこと」だらけ。なくすことはできなくても、ちょっとしたことで少しでも楽になれば、その人のQOLは改善し、育児への意欲も沸いてくるのではないか?

Ⅷ. まとめ

ちょっとさすったり、タオルを使ったり、体操をしてもらったり。そんなちょっとしたことの積み重ねで、お産がスルスルと進んで、元気な赤ちゃんが生まれ、出血も少なくなり、外陰部の痛みも軽減… こんなことができた。骨盤ケアの知識と技術を利用して、スルスルぽんの安産を増やしていただきたい。