第44回日本看護学会(母性看護)学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART12

妊娠・分娩・産褥・新生児のトラブル
―命を育む女性の体の変化を見つめ、考えよう―

目次

演者経歴

演題 命を育む女性の体の変化を見つめ、考えよう
教科書で習ったことが「合わない」と感じることはありませんか?

トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

演題 命を育む女性の体の変化を見つめ、考えよう
教科書で習ったことが「合わない」と感じることはありませんか?

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助産師 渡部 信子

トコ・カイロプラクティック学院 学院長
助産師 渡部 信子

はじめに

1998年4月に大学病院を退職し、整体サロン「健美サロン渡部」を開いて以来、数多くの妊産婦、乳幼児に出会ってきた。この15年間の母子の体の変化はもちろん大きいものがあるが、ことに、この3~4年の変化はすさまじい。来年はどんな妊婦、どんな乳児に出会うのかと思うと恐ろしい。

このように考えるのは、整体を学び、整体的観察眼で母子の体を見ている助産師だけではないはずである。きっと今日、この場に集まられた皆さんも、多かれ少なかれ同様に感じられているのではないだろうか?

Ⅰ. 妊産婦さんや赤ちゃんの、どんな症状が気になりますか?

図1:妊産婦さんと赤ちゃんの気になる症状などに関するアンケート

有限会社トコ企画では、2年半前に「メンテ"力"UPセミナー」(15P参照)の開催を始めたときから、アンケートを実施している。しかし、せっかく協力していただいたにも関わらず、その結果を十分には活かせていなかった。それを反省し、「受講者の皆さんにせっかく書いてもらったアンケートは、もっと活かさねば!」と考え、統計処理しやすいように作り変え、2013年4月から使用している(図1)。

以後7会場分のアンケート(234/281、回収率83.3%)の、「妊産婦さんの気になる症状」についてまとめたのが図2で、「赤ちゃんの気になる症状」についてまとめたのが図3である。

図2:妊婦さんの気になる症状など
図3:赤ちゃんの気になる症状など

妊産婦さんの気になる症状では「妊娠~産後の腰痛・尾骨部痛」が1位、体の痛みや不調、授乳姿勢の悪さと、妊娠分娩の異常が3~8位までを占めた。これは、セミナーの内容に合致しいる症状であり、順当なところであろう。一方、「受け身の妊産婦」が2位と、「身体を動かそうとしない妊産婦」が9位に入った。これらから、何事にも受け身で医療者任せ、自分から体を動かそうとしない妊産婦に関して、受講者が気になっていることがうかがえる。このような妊産婦にしてしまわないよう、妊娠早期から、皆さんの積極的なアプローチを期待したい。

 「赤ちゃんの気になる症状」では「激しい啼泣・泣き止まない」が1位、「反り返って抱きにくい」が2位、「片方しか向かないorどちらも向けない」が3位と、私たち整体を学ぶ助産師が気にしている項目と、ピッタリ一致した。これらの項目は、新生児室勤務者の疲労蓄積につながることであると同時に、新生児の内臓の機能にも影響が及んでいるのでは、と危惧される。

Ⅱ. 妊産婦や新生児の症状などのうち、減っているものと増えているもの

表1:妊産婦や新生児の症状などの増減表

私は分娩の場から離れて既に20年近くになるが、今でも陣痛発来までの妊婦や褥婦のケアにあたっている。

表1は、私自身のみならず、私の施術アシスタントや、トコ・カイロプラクティック学院主催の各種セミナーの受講生から聞いた声を基に、症状などの増減を一覧表にしたものである。

図2、3や表1を見て、同様に感じている方や、これ以外の症状についても気になっている方が多いことであろう。ぜひとも、お産の場から離れている私に、皆さんの感じていること、気になっていることを教えていただきたい。そして、その原因について共に考え、解決の糸口を探っていきたいものであるが、とりあえず、私自身の見解を述べることとする。

Ⅲ. 体や症状の変化と、その原因

図4:50年あまり前の生活、図5: 現代の生活

1. 日常生活の変化に伴う全身のぜい弱化、骨盤輪の弛緩、妊娠しにくい子宮に

図4と5を見比べれば一目瞭然、現代人が育ってきた生活では、筋肉を使って体を動かすことが、圧倒的に減っている。そのため全身の筋肉・靭帯・心肺機能などが弱く、立位や座位で良い姿勢を保つことすら苦手な人が多い。

1) 骨盤輪の弛緩と子宮内腔・内子宮口の弛緩(?)

ゴム飛び・ケンパなどピョンピョンと飛び跳ねる遊びや、野山を駆けまわる遊びは、足から骨盤に衝撃が伝わるため、骨盤の靭帯の強化には最適である(図6)。しかし、そのような遊びを十分せずに育った女性の中には、妊娠する前から骨盤輪が弛緩し、図7のような強い恥骨結合の弛緩が認められる人もある。

図6:骨盤と靭帯 図7:弛緩し今にも離開しそうな恥骨結合
図8:子宮正面図・側面図
図9:胃が圧迫されずムカムカしない。腹直筋離開で尖腹・懸垂腹になると、前不正軸定位となる

「体外受精を何度受けても、化学妊娠ばかりで着床しない」という女性に、このように恥骨結合の弛緩の強い人がある。また、低位胎盤・前置胎盤の妊婦にも、妊娠初期から同様に弛緩している人が多い。着床前の杯盤胞でも直径1mm以下の大きさなのに、緩んだ子宮内腔では良好な位置に着床するとは考えにくい。また、子宮口まで緩んでしまうと、着床することなく化学妊娠で終わってしまうことが考えられる(図8)。

2) 内臓下垂と骨格のゆがみ

骨盤輪が弛緩すると骨盤腔内は拡大し、全ての内臓が下垂するため、骨盤内臓器である膀胱・子宮・直腸は脱出することもある。当然、流早産のリスクも高まる。

近年ますます、病院だけでなく一般企業においても「妊婦と分かるお腹の妊婦が働いている姿を見ることが減ってきた。たいてい妊娠10週台で切迫流産などで病休に入ってしまい、そのまま育休明けまで出勤してこない」と聞く。

また、不安定な骨盤の上に積み重なっている腰椎・胸椎・頸椎・頭蓋骨はバランスを崩しやすく、それが頭痛をはじめとする全身の痛みや不調につながっていく。

妊娠すれば初期から排尿障害・腰痛・恥骨部痛・背部痛・頭痛などの痛みや不調が襲ってくる。中には「たかがマイナートラブル」と見過ごせないほどの重症者もいる。

内臓が下垂している妊婦は妊娠子宮に胃が圧迫されない(図9)。そのため、食欲は落ちず、旺盛な食欲に任せて食べ、妊娠期間中に20kg以上も体重を増やす妊婦も多いと聞く。

図10:腹直筋離開で子宮が横に広がると、胎児の膝が伸び、先天性股関節脱臼のリスクが高まる
3) 強い腹直筋離開

農作業や薪割りなどをしたことがなく、しかも、胴体が扁平な女性は、妊娠後期になると著明な腹直筋離開を起こすことが多い。

図9のような尖腹だと、不正軸定位となりやすく、生まれた児も図11のように強く首をかしげ、全身が捻れていることがある。このような児は、体が硬く、啼泣が激しく、哺乳もしづらく、呼吸状態も悪く、黄疸も強くなることが多い。

図11:出生時から、首をかしげ、全身を捻じっている児

グーをするとき、ヒトは親指を外にするのが正常である。にもかかわらず、胎内で良好な胎勢を保てず、親指を十分にしゃぶれなかった子は、親指を握りこんでいる。それでは「手八丁口八丁」の子どもに育つ可能性は低く、養育者はその後の児のケアに、多大な時間を注がねばならなくなる。

4) 分娩所要時間

「フリードマン曲線は全然合わない」との声を聞くようになって久しい。骨盤輪が弛緩しているだけで、ゆがみのない骨盤で、胎位・胎向・胎勢が良好な場合は、初産婦でも3時間未満の分娩所要時間で分娩を終えることもある。

「過去に二回安産した人が、三回目は帝王切開になることが珍しくない」との声もよく聞く。出産を繰り返すたびに骨盤輪が弛緩し、弛緩したまま育児をしているうちに骨盤がゆがみ、ゆがんだ骨盤(骨産道)を胎児が通れずに、機械(吸引・鉗子)分娩や帝王切開…、というパターンである。

図10のような腹直筋離開の強い産婦は、陣痛は有効となりにくく、遷延分娩になりがちである。皆さんの中にも「従来の産科理論は現代には合わなくなってきた。教科書で習ったこととは違う」と感じている助産師も多いのではないだろうか?

5) 分娩時出血

分娩時出血は従来「500g以上が大量」とされてきたが、「800g以上が大量」とする施設が増えてきている。また、胎盤娩出後2時間は分娩第4期と称し、従来から出血が多い時期であるが、「その時期に出血が多くなければ、それ以後に大量出血することはない」と言い伝えられてきた。

ところが、私のクライアントに「産後11日に、3,000gの弛緩性出血をした」と言う人がいる。セミナー受講助産師からも「帰室した後に3,000g」とか「退院の直前に3,000g」との声も時々聞く。「分娩第4期が過ぎれば、後は安心」という時代ではないようだ。

一方、骨盤ケアをしながら分娩介助を行うことにより、分娩時出血が減少するとの報告は次第に増え、今年の日本産科婦人科学会学術講演会でも、分娩時に体操用ゴムチューブで骨盤輪支持を行うことによって、分娩時出血が少なくなったとの研究発表があった。

2. 大臀筋などの股関節外旋筋群が弱いために起きている骨盤の変化

タライと洗濯板での洗濯や、和式便所が激減し、日常生活の中でしゃがむ機会が激減した。これらにより、大臀筋などの股関節外旋筋群の発達が悪い女性が多い。妊婦の中には妊娠中期から既に仙骨が著しく突出して、歩行困難となる人もある。

今年の日本産科婦人科学会学術講演会において、細長型骨盤(類人猿型=幼児型)の女性が、近年激増していることが、浜松医科大学の鳴本敬一郎医師によって発表された*1)。その理由として、股関節外旋筋群の発達が不十分であることが推測できる。

細長型骨盤を持つ妊婦では、胎児は反屈位であることが多い。また、鳴本医師も指摘している通り、安産しづらい骨盤である。

3. 食生活の変化に伴う肥満・糖尿病の増加、妊娠・分娩に不向きな体の増加

戦後の経済成長とともに、硬くてしっかり噛まないと食べられない素朴な味の食物を食べることが減り、あまり噛まなくても食べられる甘くて旨みの強い食物を多く食べるようになった。その結果、インスリンが急激に分泌され、早く空腹感に襲われ、大食傾向に陥り、肥満・糖尿病・黄色脂肪肝などリスクが高まるだけでなく、体を動かすのがますます苦手となり、妊娠・分娩に不向きな体ができ上がってしまう。

また、だらしない姿勢で長時間、座り続けることにより、骨盤内のうっ血は強くなる。それによって、子宮胎盤循環は悪化し、絨毛間腔の酸素飽和度が低下し、妊娠高血圧症候群・胎盤機能低下・胎児機能不全を招くことにつながる。出生時体重が年々減少していることも、このことが影響していると推測される。

4. 健康美よりも外観、実生活よりもSNS…価値観の変化に伴う硬直した体の増加

図12:自律神経図

肉体そのものの健康美を追求するより、化粧・衣服・アクセサリーなどの外観を気にし、お金と時間をつぎ込む女性が増加している。さらに、実生活の中で出会う人とのつながりを大切にするのではなく、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の中に生き甲斐を求める若者が増えていると聞く。

そのため「スマホ中毒者」が年々増えている。その結果、長時間にわたって目はおろか顔すら動かさず、後頭窩~頸部~肩~背部・上肢に、頑固な凝りが蓄積している人が増えている。手はスマートフォンを持つ手に形状記憶され「産褥ショーツのマジックの着脱もできず、赤ちゃんを抱けず、オムツ交換もできず、とても授乳できるような母子の姿勢になれない…」と、全国の助産師から悲鳴に似た声が私に届いている。

後頭窩の強い凝りは、迷走神経の機能を低下させることが考えられる。また、後頭窩が凝って動きが悪くなると、腰仙関節周辺も凝り、骨盤内臓神経の機能の低下も招くことが考えられる。そうなると、交感神経優位となり、全身が戦闘的・興奮状態となり、内臓への血流は低下し、女性の体は妊娠・分娩には不都合な状態となる。後頭窩の凝りを緩めると、とたんに、硬かった子宮が柔らかくなる。「硬かった子宮が柔らかくなれば、後頭窩の凝りが緩んだ」と私は判断している(図12)。

妊娠中は、歩行だけでなく、体の柔軟性を高める運動(ダンス・エアロビクス・ヨガ・大極拳)なども大いにすることが大切なのだが、スマホにかじりついていては、体はますます硬直しぜい弱になる。

マザークラスを畳やカーペットの部屋で開いて、安産体操などしている施設が今ではごくわずかしかない。その理由は、部屋がないのではなく「妊婦さんが正座やあぐらで座っていられず、評判が悪いからやめた」と言うから、あいた口がふさがらない。正座やあぐらで座っていられないような妊婦は「分娩第2期が近づいた頃には、分娩姿勢すら取れない」と嘆く助産師の声も、年々大きくなっている。

5. 良い生まれ方、良い育てられ方をされていない体の女性が増加

頭はゆがみ絶壁、歯並びは悪く、逆咬合、脊柱はS字状彎曲が弱く、脊柱側弯・細長(類人猿)型骨盤、強い腹直筋離開…、こんな妊婦はその人自身が双胎であったり、安産で生まれていないことが多い。

頭がゆがんでしまった理由として、新生児の頃の向きぐせが最も考えられる。向きぐせの人はそれに見合う頸椎や後頭関節の捻じれや傾きがある。頸椎・後頭関節のゆがみは骨盤まで連動するため、捻じれ傾いた子宮の中で育ち、捻じれ傾いた骨盤を通ってきた児は、母と同じようなゆがみ方をしていることが多い。側弯や頭のゆがみを遺伝と思い込んでいる人がいるが、それは違う。私は「ゆがみの母子間連鎖」であると確信している。

Ⅳ. まとめ

以上述べたように体のゆがみは母子間で連鎖すると考えられる。ゆがみの連鎖を断ち切って、安全安心安楽な分娩と健康な児を育成することが、我々助産師の使命であろう。

新生児の姿勢やケア方法と、新生児の胎外生活への適応に関する研究は、極めて少ない。栗原*2)による報告もあるので、それを参考に皆さんの施設でも、ぜひとも研究に取り組んでいただきたい。

Ⅴ. どのようにケアすればいいか?

図13:骨盤ケアの三原則
図14:骨盤だけでなく腹部も幅広く支えないと内臓は適切な位置に保たれない

1. 骨盤ケアの三原則に基づくケア

1) 下がった内臓を上げる
2) ゆがみを整える(操体法や体操)
3) 緩んだ腰腹部を支える
(図13)

強い腹直筋離開を伴う妊婦の場合、骨盤輪だけでなく、図14のように幅の広い妊婦帯で、腹直筋離開が閉じるように巻くと、7、8ページのような子宮の形状、胎勢、母体のマイナートラブルの軽減に役立つ。

【P0INT】

1) できることからする
2) 三つをくりかえす
3) 毎日続ける

2. ケアしやすい上肢を手に入れる

1) 手ぬぐいまわし
2) ∞回し

3. 手軽にできる凝りほぐし

乾布摩擦
手ぬぐい玉で凝りほぐし体操

4. 筋力増強体操

手ぬぐいを使ったアイソメトリック運動

参考文献

  • 鳴本敬一郎(浜松医科大学)他 過去50年間における日本人妊婦骨盤形態の変化と周産期予後の検討 第65回日本産科婦人科学会学術講演会 2013
  • 栗原芳美 当院における新生児ケアのご紹介 p10-15 有限会社青葉共催ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善!PART7 2011