第25回日本助産学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART6

妊娠・分娩・産褥・新生児期のトラブル
―助産師のケアで早産を減らせる!―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 当院における双胎妊婦への骨盤ケアの取り組みと宮崎県における骨盤ケアの現状
医療法人同心会 古賀総合病院周産期母子センター師長 助産師 田中 優子

演題2 切迫早産妊婦に対する骨盤輪支持の有効性の検討
奈良県立奈良病院 主任 助産師 前田 智子

演題1 当院における双胎妊婦への骨盤ケアの取り組みと、
宮崎県における骨盤ケアの現状

LINEで送る
助産師 田中優子

宮崎市 医療法人同心会
古賀総合病院周産期母子センター師長
助産師 田中優子

Ⅰ.はじめに

図1:宮崎県における中核病院の分布

東国原県知事の「どげんかせんといかん」や口蹄疫で有名になった南国宮崎、東国原知事から河野知事に変わったとたんに、鳥インフルエンザ。 さらには、新燃岳の噴火で、宮崎市の北部に位置する古賀総合病院あたりにも火山灰が降り、勤務している私達も大変な日々を過ごしている。

そんな災難続きの宮崎県ではあるが、宮崎県は全国一安全に出産できる県としても有名である。 それは、宮崎大学医学部附属病院を総合周産期母子医療センターとし、そこを要とした地域分散型の周産期医療体制が構築されているからである。 県内の各地域に中核施設となる地域周産期母子医療センターを7施設(県央 3、県西 2、県南 1、県北 1)置き、 当院も県央の中核施設としてその一翼を担っている。 どの地域においても個人病院などから30分以内に搬送できるようになり、母子保健指標を達成できる体制が構築され、 「たらいまわし」のない全国一安全に出産できる県となった。

図2:当院の分娩件数の推移

古賀総合病院は、病床数363床、診療科が21ある総合病院である。 2006(平成18)年に産婦人科から周産期センターとして増築し、高度生殖治療センターとしての機能も始まり、2008(平成20)年には宮崎県地域周産期母子医療センターとして認定された。産婦人科として23床、GCU6床、NICU3床、産婦人科外来含めて1看護単位で診療をしている。周産期センターとして増築してからは、分娩件数も増え、2010(平成22)年は分娩件数535件となった。

当院においても、高度生殖医療を行っていることや、県内での中核施設として機能していることから、早産や多胎妊娠などの件数も増えてきている。双胎妊婦の妊娠後期に起こる腰痛や早産を、何とか看護の力で食い止めることができないか。そう考えていた時、母子整体研究会の入門セミナーが目に留まり、福岡で開催されたセミナーに参加したのが始まりであった。

双胎妊婦

2006(平成18)年、ある双胎妊婦に骨盤輪支持を実施したところ、子宮増大に伴う胃部不快感が軽減し、切迫早産の症状が悪化することなく、帝王切開予定の日まで妊娠継続できた症例に出会った。以後、2007(平成19)年よりトコちゃんベルトを導入し、双胎妊婦には全員に骨盤ケアの大切さを説明し、ベルトの使用を勧めている。現在では、骨盤ケアの説明とベルトの使用がほぼ定着してきた。

同時に他施設などで働く助産師仲間にも、現代の妊婦には骨盤ケアが必要ではないかと話し続けた中で、骨盤ケアがじわじわと宮崎県の中に広がり、宮崎市で開催する「いいお産の日」で骨盤ケアのブースを助産師会で開くことができた。また、県内の中核病院の売店では、トコちゃんベルトなどの骨盤ベルトを購入することができるようになってきた。今回のセミナーの出講が決まったことを機に、宮崎県での骨盤ケアの現状をアンケート調査することができたので、あわせて報告する。

Ⅱ.双胎妊婦の骨盤輪支持

1.調査目的

双胎妊婦に骨盤輪支持を行ったことにより、早産の予防に役立ったかを知る。

2.調査方法

1) 期間:2008(平成20)年7月~2009(平成21)年5月
2) 対象:①群…2004~2006(平成16~18)年、管理入院をした双胎妊婦16名
②群…2008(平成20)年、管理入院をした双胎妊婦18名
3) 方法:(1) ①群と②群の双胎妊婦の管理入院中の薬剤使用、診察所見、出生時の状況、骨盤ベルトの使用状況を入院カルテより情報収集する。
(2) ①群と②群の双胎妊婦の早産率、点滴率、頸管長を比較する。

3.結果

図3:頸管長の変化
1) 頸管長

①群の妊娠中期(管理入院前の妊娠20週前後)の頸管長の平均は40.7㎜で、妊娠後期(最終測定時の値、妊娠35週前後)は22.9㎜、中期と後期の頸管長の短縮は17.8㎜であった。②群の妊娠中期の頸管長の平均は39.9㎜で、②群の妊娠後期は26.3㎜、中期と後期の頸管長の短縮は13.5㎜であった。①群と②群における中期・後期での頸管長短縮の平均の差は4.3mmであった。

2) 薬剤使用状況
図4:薬剤使用状況

①群で子宮収縮抑制剤の点滴を受けた妊婦は9名(56.2%)、子宮収縮抑制剤の内服のみの妊婦は5名(31.2%)、薬剤使用なしの妊婦は2名(12.5%)であった。②群で子宮収縮抑制剤の点滴を受けた妊婦は7名(38.8%)、子宮収縮抑制剤の内服のみの妊婦は6名(33.3%)、薬剤使用なしの妊婦は5名(27.7%)であった。

3) 早産

早産した妊婦は、①群が7人(43.7%)、②群は5人(27.7%)であった。

図5:出産時期
4)骨盤ベルトについて

①群では骨盤ベルトを使用していた記載がほとんどなかった。②群では骨盤ベルトの使用をカルテに記載していたが、看護者の指導状況や骨盤ベルトの装着頻度についての記載はなかった。


4.双胎妊婦の骨盤輪支持の勉強会と指導方法

骨盤ベルトの研修会に参加した看護スタッフを中心に、スタッフ間の勉強会を行った。当初は途中で骨盤ベルトをはずしている妊婦が多く、「使いづらい」「着け方がわからない」「痛い」など様々な意見があった。また、スタッフからも「指導の方法がわからない」「わかる人がいつも勤務にいるとは限らない」という声もあったことから、誰でも指導ができ、さらに妊婦が一人でも装着できる方法として、独自のパンフレットを作成することとなった。

写真2:独自の骨盤輪支持法のパンフレット

妊婦や看護スタッフの声をもとに作成した当院独自の装着法のパンフレットだが、妊婦やスタッフからも「わかりやすい」との声が聞こえている。ある妊婦からは「スタッフからの説明もわかりやすくなり、パンフレットに添付写真があるので、独自で骨盤ベルトを装着することができた」との意見をいただいた。現在はこれを用いて妊婦へ指導に当たっている。


5.双胎妊婦の骨盤輪支持のまとめ

双胎妊婦はその子宮の中に二人の胎児が存在するため、単胎妊婦より切迫早産になりやすい体の環境にあると言えよう。切迫早産により安静が必要とされる妊婦は、その症状の増強により、安静度が強化される。

双胎妊婦が骨盤ベルトを装着することにより、頸管長の短縮も見られず、点滴を必要とすることも減少し、入院妊婦のQOL低下防止に役立っていることがわかった。それにより、骨盤ベルトの使用によって、切迫早産の症状増強の差だけでなく、妊婦一人一人のQOL向上にも大きく貢献でき、妊婦自身ができるセルフケアの一つとして確立できた。

指導面では、パンフレット作成により、スタッフへは骨盤ベルトの意義、知識を深めることができ、指導のしやすさに至った点、妊婦へはスタッフに聞かなくても独自で装着することができるという点で、大きく貢献している。

Ⅲ.宮崎県での骨盤ケアの現状

図6:施設の種類

宮崎県内の分娩を取り扱っている施設(助産所も含む)にアンケート調査を行った。アンケートは51施設に郵送し、20施設より回答があり、回収率は39.2%であった。

施設の種別は私立病院が9施設と多く(図6)、助産所の回答は宮崎県内すべての助産所から回答が得られた。各施設の2010年度の分娩件数は200~300件という施設が多く、当院のように500を超える施設からの回答も2施設あった(図7)。

図7:施設の分娩数

骨盤を支持するアイテムとして、骨盤ベルトが16施設と多く、さらしを使用している施設は10施設であった(図8)。骨盤ベルトの名称はトコちゃんベルトが14施設、その他は3施設(図9)。各施設での骨盤ベルトの取り扱い方法は、院内売店が5施設、外来や病棟で看護スタッフが患者に渡し、その後会計処理するところが7施設であった(図10)。これは病棟・外来スタッフから注文という形をとっていると思われる。


図8:骨盤輪支持アイテム
図9:骨盤ベルトの名称
図10:骨盤ベルトの取り扱い方法
図11:骨盤ケアに関する感想

アンケート記入者の骨盤ケアへの感想は、<とても有効と思う>が17施設、<少しは有効と思う>が3施設、<有効と思わない>という施設はなかった。

どんな症状に有効かという問いに対しては腰痛が一番多く18件、恥骨部痛が16件、切迫流早産が10件、分娩時の出血が6件だった。排尿障害や痔・脱肛のようなマイナートラブルで、しかも、既に骨盤ケアによって症状軽減が有効と論文発表されている症状よりも、切迫流早産の方が有効と思うとの回答数が多かったことは、注目に値するのではないだろうか。

図12:どんな症状に有効と思うか

医師が妊婦に骨盤ケア指導を受けるように勧めるかについては、<勧めないが禁止もしない>という施設が12施設、<症状の強い人にのみ>という施設が6施設、<勧めない・禁止する>という施設が2施設あった。医師が看護スタッフに骨盤ケアを学び、実施するように勧めるかという問いに対しては、<勧めないが禁止もしない>が18施設で最も多かった。しかし、<熱心に勧める>が5施設で、<勧めない・禁止する>の3施設より多かったことに時代の変化を感じる。

図13:医師が妊婦に骨盤ケア指導を受けるように勧めるか

この医師との関わりは非常に施設内では難しいところであり、医師との協働という立場で、看護の視点から腰痛や切迫流早産を考えサポートしていく工夫として話を進めていかなくては「エビデンスの無いことは取り入れられない」と突き放される場合も経験上少なくない。実際私が母子整体研究会の入門セミナー講習会に参加した後、妊婦が健診時に恥骨部痛や腰痛で産婦人科医師に相談し、整形外科を紹介され受診して「骨には異常ありません」といわれ、再び産婦人科に来られ、湿布薬を処方されても症状緩和できなかった方を「助産師と相談しましょう」と別室に呼び込み、ベルトの紹介や、体操などを勧め、自分の骨盤ベルトを貸し出すことからはじめていった。

図14:医師が看護スタッフに骨盤ケアを実施するように勧めるか

あれほど痛みを訴え、足を引きずり歩く患者がスタスタと歩いて帰るのを何度も医師の側でやって見せることからはじめて約2年してから、医師から「何をしたらあんなに歩いて帰られるのか?」と声をかけられた。 「チャンス!」と考え看護の視点から、今の若い人の骨格が変化してきていることなど助産師としての見解を話し、骨盤輪を支えることの必要性を伝えたところ、医師から「腰痛がある妊婦がいるけど、相談に乗ってくれ」という連絡が整形外科受診前に入るように変化している。

「いいお産の日」のイベント広告

私は日本助産師会宮崎県支部に所属しており、地域の助産師さんたちと関わる機会も多く、ちょうど母子整体研究会の入門セミナー講習会を受けてきた後、助産師会での話し合いに参加したところ、同じセミナーに参加した助産師と知り合いになったこともあり、骨盤ケアの普及とまではいきませんが、お互いに意見を交換するうちに他の助産師が興味を持ち、ホームページから検索したり、セミナーに参加が始まったりと、じわじわ普及が始まってきた。

今では「いいお産の日」のイベントにて骨盤ベルトのブースを立ち上げ一般の妊婦さんへ紹介したり、2月26日には宮崎県の北部の産科に携わっている方たちの勉強会に呼ばれ、微力ながら当院のスタッフとともに骨盤ケアの実際をお話し、実演するという活動に広がりつつある。

Ⅳ.まとめ

双胎妊婦への骨盤輪支持の調査によって、私たちが日ごろ切迫早産予防に役立っていると感じていることが、ある程度裏付けられたと思う。骨盤輪支持は双胎妊婦に限らずどの妊婦にも必要であり、初期の妊婦健診の段階からの保健指導が必要であると考える。それを実践するためには、スタッフの指導力の向上も必要である。そのため、骨盤ケアの研修に参加したスタッフを中心に、スタッフ間の知識を深め、骨盤ケアの指導法の統一が必要である。医師との協働の中、母親となる現代の若い女性の身体をより理解し、看護力を高めていくという点で、骨盤ケアの充実は必要なことではないかと考える。

今回の宮崎県内の分娩取扱い施設に対するアンケートにより、回収率は高くはなかったが、宮崎県での現状を少しではあるが知ることができた。また、アンケートを行うこと自体が骨盤ケアの普及に役立ったのではと思う。宮崎県で今以上に助産師の力を強くするためにも微力ながら今の活動を続けていきたい。