第25回日本助産学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART6

妊娠・分娩・産褥・新生児期のトラブル
―助産師のケアで早産を減らせる!―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 当院における双胎妊婦への骨盤ケアの取り組みと宮崎県における骨盤ケアの現状
医療法人同心会 古賀総合病院周産期母子センター師長 助産師 田中 優子

演題2 切迫早産妊婦に対する骨盤輪支持の有効性の検討
奈良県立奈良病院 主任 助産師 前田 智子

演題2 切迫早産妊婦に対する骨盤輪支持の有効性の検討

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助産師 前田智子

奈良県立奈良病院 主任
助産師 前田智子

Ⅰ.はじめに

現在、出産適齢期にある女性の多くは、車の普及による歩行の減少や家事の省力化などで生活習慣が変化している。そのため、骨盤を支える靭帯や筋肉が細く弱くなり、骨盤が緩んでいる傾向にある。その結果、自律神経機能や血流量の低下を招き、冷える体質をつくり、子宮収縮を増強させ、切迫早産を誘発すると考えられている。

当院は奈良県北部における中核病院であり、周産期母子医療センターを有している。産科単科、病床数は26床である。2010(平成22)年度の病床利用率は85.7%、分娩件数は539件、うち帝王切開179件(予定96件、緊急83件)、帝王切開率33%である。母体搬送受け入れ61件となっている。

2003(平成15)年より、褥婦の腰痛対策として骨盤輪支持を導入したところ、大きな効果を感じ、妊婦のケアとしても導入を開始した。妊産婦に骨盤輪支持を行うと、腰痛などのマイナートラブルの解消のみならず、切迫早産妊婦の妊娠継続のケアとして効果を感じた。そこで骨盤輪支持の有効性に着目し、2005(平成17)年から切迫早産の看護として骨盤輪支持を開始した。同じレベルで骨盤輪支持を行えるように、同年12月に全スタッフ対象に最初の勉強会を開催し、全スタッフが受講するまで学習会を繰り返し行った。そして、ケアの標準化(チェックリストによる知識、技術の統一)を図った上で、切迫早産妊婦に対して看護ケアとして骨盤輪支持を提供した。現在も新規採用者が入職するたびに、学習会を継続的に行っている。

今回、切迫早産妊婦に骨盤輪支持を導入した前後の入院中の安静度、治療内容、子宮頸管長(以下頸管長)の変化や妊娠継続期間の差異などについて調査し、骨盤輪支持の有効性を検討した。その結果、切迫早産の妊婦の看護に有効であったので報告する。

Ⅱ.研究目的

切迫早産妊婦に骨盤輪支持を導入した前後の入院中の安静度、治療内容、頸管長の変化や妊娠継続期間の差異などついて調査し、骨盤輪支持の有効性を比較検討する。

Ⅲ.研究方法

1.研究期間と対象

骨盤輪支持導入前(以下A群):2002(平成14)年11月~2003(平成15)年10月に切迫早産のために入院した妊婦60名。骨盤輪支持導入後(以下B群):2008(平成20)年11月~2009(平成21)年3月に切迫早産のために入院した妊婦20名。
常位胎盤早期剥離、前期破水、妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育不全、死産は対象から除外した。

2.調査項目

助産録および診療録より、初産婦・経産婦、年齢、妊娠歴、入院時の妊娠週数、分娩時の妊娠週数、安静度の変化、塩酸リトドリン点滴および硫酸マグネシウム点滴の使用状況を調査した。

3.検定方法

Unpaired t-test、χ2検定、Fisherの直接確率法を用いて、両群の比較検討を行い、p<0.05を有意差ありとした。

4.倫理的配慮

対象者に研究趣旨、研究協力の任意性などを説明し同意を得た。個人が特定できないよう統計処理した。

5.用語の定義

図1:骨盤輪支持の適切な位置

骨盤ケア:ゆがみ変形した骨盤や筋肉・靭帯のアンバランスの調整、下垂した臓器の復元、緩みすぎた骨盤輪を支持すること。

骨盤輪支持:骨盤輪の周囲をベルトやさらしなどのアイテムを用いて心地良い強さで支持すること。支持位置の詳細は図1に示すように、上前腸骨棘下縁と大転子の間。アイテムで恥骨の上縁を覆い、臀部ではアイテムを上下にずらしてみて、快適と感じる位置。
 安静度:表1に示す内容のこと。

表1:安静度表

Ⅳ.結果

1.対象者の属性

表2:対象者の属性

対象者の属性に差は認めなかった(表2)。


2.治療内容

表3:治療内容 塩酸リトドリン点滴

入院時の塩酸リトドリン点滴の使用率に両群差はなかった。入院途中で塩酸リトドリン点滴が開始になった妊婦の割合は、B群で少ない傾向があった。塩酸リトドリン点滴の使用量を増量させる必要のあった妊婦の割合は、B群で有意に少なく、減量できた妊婦には差はなかった(表3)。

表3:治療内容 硫酸マグネシウム点滴

入院時の硫酸マグネシウム点滴の使用率に両群差はなかった。入院途中で硫酸マグネシウム点滴が開始になった妊婦の割合は、B群で少ない傾向があった。硫酸マグネシウム点滴の使用量を増量・減量できた妊婦に差はなかった(表4)。

3.安静度

表5:安静度の経過

入院時の安静度に両群差はなかった。しかし、B群は入院後の安静度の厳しい妊婦が有意に少なく、入院経過中に安静度ⅠまたはⅡになった妊婦の割合が有意に少なかった(表5)。

4.頸管長

図2:骨盤輪支持前後の頸管長の変化

頸管長は、入院2週後に、A群は平均3.6mm短縮、B群は平均0.3mm短縮した。(p=0.037)頸管長は、入院4週後に、A群は平均9.5mm短縮、B群は平均1.0mm短縮した(p=0.037)(図2)。

5.妊娠延長期間

表6:分娩時の分娩週数・妊娠延長期間・36週以降に分娩となった妊婦の割合

分娩週数や妊娠延長期間はB群が有意に延長し、妊娠36週以降に分娩に至った妊婦の割合もB群に有意に多かった。また頸管長の短縮の進行も緩やかであった(表6)(図3)。

6.妊娠36週まで妊娠を継続させる要因

図3:36週以降に分娩となった妊婦の割合

妊娠36週まで妊娠を継続させる要因について、ロジステック回帰分析を行った結果、オッズ比6.88、95%信頼区間1.391-34.035、p=0.018で骨盤輪支持が最も関与していた。

Ⅴ.考察

図4:妊娠36週まで妊娠を継続させる要因

1.骨盤輪支持導入後、頸管長短縮の進行が緩やかになった。渡部1)らは「骨盤高位により内臓を正位置に戻し骨盤輪固定にて骨盤底容積の縮小を図ることにより、子宮下垂を予防し、子宮頸管への物理的刺激を軽減させ、子宮収縮の緩和が可能となったものと考える」と発表しており、当病棟においても同様の理由で子宮収縮が緩和され、頸管長短縮の進行が緩やかになったと考える。

2.今回の検討では、骨盤輪支持は、妊娠36週まで妊娠を継続させる要因で最も関与していた。

3.骨盤輪支持導入後、切迫早産で入院中の妊婦が分娩に至る週数や、妊娠継続期間が延長し、妊娠36週以降に分娩となった妊婦の割合は多くなった。

4.薬剤による陣痛抑制より、骨盤輪支持は副作用がなく、母体の身体的負担が少ない。しかも、骨盤ケアは助産師が切迫早産妊婦に主体的に関われる分野であり、助産師の行うケアにより、早産を減らせる可能性が示唆された。

Ⅵ.結論

図5:切迫早産妊婦の看護ケアに有効

今回の検討では、骨盤ケアは切迫早産妊婦の妊娠継続期間を、妊娠36週まで延長させる最大の要因であった。我々が行ってきた切迫早産の妊婦への骨盤ケアは、有効なケアであったことが示唆された(図5)。

Ⅶ.結語

今後は入院した切迫早産の妊婦に対してのみ骨盤ケアを行うのではなく、妊娠初期から全ての妊婦を対象に取り組みたいと考え、マザークラス(前期・後期・両親)の内容充実に力を注いでいる。骨盤模型を用いて、骨盤輪支持の利点である腰痛予防、内臓下垂の予防の説明を行った後、質問時間を特別に設け個別に支持の位置、支持の方向、支持の強さなどを詳しく説明している。

また、現在マザークラステキスト第4版を改訂中である。ハイリスク妊産婦が多い状況の中、妊婦のセルフケア能力を引き出すことの重要性を痛感し、今回は骨盤ケアの具体的方法(操体法、骨盤輪支持、骨盤高位)に関する内容を10ページ盛り込み、妊産褥婦がより健全に過ごせるように願いをこめて編集した。このマザークラステキスト改訂をきっかけに、マザークラスの指導内容を検討し、スタッフが妊産褥婦に質の高い骨盤ケアが提供できるように継続的に勉強会を行っている。

また、里帰りや母体搬送の切迫早産で入院した場合、骨盤輪支持の意義を説明し、支持の位置、方向、支持の時の注意点や日常生活でのアドバイスを個別に行っている。

これらにより、切迫早産で入院を余儀なくされる妊婦を減らせるものと期待し、研鑽していきたい。

引用文献

  • 渡部信子,山元加代子,中川葉月.早産予防に骨盤輪固定が有効だったと考えられる症例報告,日本周産期・新生児医学会雑誌,41巻2号

参考文献

  • 渡部信子,山元加代子,中川葉月.早産予防に骨盤輪固定が有効だったと考えられる症例報告,日本周産期・新生児医学会雑誌,41巻2号
  • 前田智子.骨盤輪固定導入前後の切迫早産入院患者の動向について,母子整体研究会 第1回研究発表会 抄録集