第26回日本助産学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART9

妊娠・分娩・産褥・新生児期のトラブル
―胎児期・新生児期からのケアで子どもの発達促進を―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 発達外来の子どもから見えてくる胎児姿勢・新生児ケアの重要性
北翔会 札幌あゆみの園・ひまわり会札樽病院
苗穂レディスクリニック 発達外来 小児科医 加藤 靜恵

発達外来の子どもから見えてくる胎児姿勢・新生児ケアの重要性

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小児科医 加藤 靜恵

北翔会 札幌あゆみの園・ひまわり会札樽病院
苗穂レディスクリニック 発達外来
小児科医 加藤 靜恵

はじめに

私は小児の発達を専門とする小児科医で、現在は産婦人科での発達健診と2か所の小児医療施設で、協調運動が苦手な発達障害(自閉症(Autism);広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:以下PDD);注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit/Hyper-activity Disorder: 以下AD/HD)など)の子を対象に、感覚統合療法を主体としたリハビリテーションを担当している。

今日は、出産の現場で働いている助産師の皆様に、ぜひとも知っておいていただきたいことを中心にお話しする。

まず理解してほしいこと
①発達のつまずきを作らないように、新生児期から一人一人に見合った保育ケアが必要であること
②乳幼児の発達の基礎である原始反射の残存と、姿勢反射の獲得状況を正しく知ることの大切さ
③母親のみならず、母子保健を担う助産師・看護師・保育士の体作りが、良好な保育ケアの提供に不可欠であり、予防医学的に重要であること

Ⅰ子どもたちの身体発達の推移と現状

1.子どもの体の“おかしさ”

数十年前から「朝からアクビ」「背中ぐにゃ」など、子どもの体の“おかしさ”について、各地の保育士や教師から報告されてきた。正木健雄日本体育大学名誉教授は、このような子どもの体の“おかしさ”が、全国規模で起きているのではと考え、1978年から25 年間にわたり、子どもの体の変化について調査・研究を続けた。その研究報告の中で、正木は「腰の力」=「背筋力指数」が落ち続けていることを指摘している。

表1:背筋力指数

正木の報告では、女子の背筋力指数の平均値は1.5以下となっており、日本の女性の半数は、育児をすると腰を痛めるということである。男子でも中学3年生で2.0以下が増加傾向にあり、高齢者介護が困難というレベルになっている。

このまま進めば、重力圏内で直立姿勢で生活し、運動や労働をすることが困難な人間が大半を占めるようになることが、十分に予想される、恐ろしい事態であると指摘されている*1)。

2. 京都府における生徒の運動器検診から見えるもの

表2:高校生の運動器検診結果

2005~2007年度に京都府の小学校・中学校・高校計9校の生徒約1,500~3,600人を対象に運動器検診が実施(京都府医師会学校保健委員会:たちいり整形外科立入克敏院長)された。

しゃがみ込みができないということは、和式トイレでの蹲踞姿勢や「ヤンキー座り」ができないことと、「ジベタリアン」の増加を意味している。 

このように、体が硬い子どもが予想以上に多く、スポーツ障害に結び付きやすいことを示唆している。そして、障害を予防するためには、運動器検診で早期発見することの重要性を報告している*2)。

3. 子どもの言語発達の遅れ

昭和55年から平成22年の乳幼児の運動機能通過率曲線で“ひとり歩き”の90%通過月齢は14ヶ月前後で大きな変化はない。一方、平成2年、12年、22年の言語機能通過率曲線で、“単語を言う”の90%通過月齢は10年ごとに1ヶ月の遅れが認められる。

言語の遅れは学習能力の低下を意味している。 “ひとり歩き”の開始に遅れがないから子どもの発達には問題がないなどと、安閑と見過ごすわけにはいかない重大な問題である。

このような子どもの体の“おかしさ”や弱さ、さらには、学習能力の低下まで引き起こしている原因について考えたい。

Ⅱ胎児環境と姿勢コントロールの密接な関係

図1:受精後48日、受精後54日

胎芽期において、受精後、肢芽は腹側に向かって伸び48日までは手足がそれぞれ向かい合う位置関係を取り、その後54日までに股関節が内旋し、足底は尾側を向くようになる(図1)。膝は体の正面に位置し、歩行に適した第一段階の変化を遂げる。股関節の変化は生後も続き、上方から見ると前方に約30度ねじれている新生児の大腿骨頭は、その後の骨成長と筋活動の増加で6歳までに約15度まで減少すると言われている*3)。

在胎16~40週の胎児は屈曲姿勢で防衛能力が発達する。また28週ころ、更に屈曲姿勢が増強し運動の準備が進み、狭い子宮内は正中位指向とアライメントの発達を促す。屈曲肢位は頸部、背部筋の完全伸張を引き起こし、体幹の屈曲姿勢は、肩・肘・股関節の屈曲活動を保障する。屈曲している頸部は口腔内の陰圧を高くし、口唇を楽に強く閉じ、羊水を嚥下するようになる。頸部屈曲で顔面筋活動が安定すると、哺乳、嚥下の発達を促進し、指しゃぶり・手遊びを安定して行い、眼球運動の発達も促進されること、新生児の正常な頸部・体幹の屈曲による安定は鼻呼吸パターンを成熟させることが、超音波エコー画像診断装置による胎児・新生児の研究で報告されている*3)、4)、5)。

図2:豊富な運動が保障される子宮内環境、図3:豊富な運動が保障されない子宮内環境

子宮内環境で経験する単純かつ豊富な反復運動と、子宮壁から受ける反動圧に対する抵抗運動は、羊水内での重力除去環境の経験であり、児の示す運動の支持面が子宮壁全体であり、重力環境下と大きく異なる。

子宮内での胎児の運動を保障するには、それが可能な子宮内環境を整えることが重要である(図2.3)。

生後の正常運動発達獲得のためには、重力に適応し運動するための筋収縮の支点を体内に作り出す経験を積む必要がある。また、比較的身体深部にある姿勢固定のための単関節筋群(抗重力筋群)と、浅層にあり運動を受け持つ多関節筋群(運動推進筋群)の分化が必要である。

運動障害がある乳幼児は、回旋運動やリズミカルな呼吸運動に関与する腹斜筋、腹横筋や肋間筋群、及び、積み重なる脊椎一つ一つの固定をつかさどる筋束の短い固有背筋群の収縮に欠ける。代わりに肩甲挙筋、大胸筋、広背筋、腹直筋、最長筋といった、本来四肢体幹の運動を保障する長形筋群と床との間で、姿勢の固定と運動を同時に行おうと努力する。

これらの姿勢保持機構や運動様式は、決して大脳皮質や大脳基底核障害による反り返りなどではなく、重力下において残存機能を効率的に利用した児なりの運動戦略であり、室内環境(照明、雑音、温度、床やベッドの弾性など)を変えることで児の外界に対する表出も変化するといった事実が、このことを示唆していると指摘されている*3)。

図4:在胎40週での姿勢の比較

図4は在胎40週での姿勢の比較である。子宮壁で守られていた正期産児は上・下肢を屈曲しているが、重力に抗する筋力の十分でない超低出生体重児は非対称性緊張性頸反射(ATNR)に支配された非対称なポジションをとっている。

低出生体重児では、形態学的神経学的未熟性と母胎内の運動経験不足や生後の重力不適応で、生理学的過剰反応を呈することが知られている。生理的安定を図るためには全体を適度に包むような配慮が必要である。胎内を再現するようなイメージでなるべく全身均一に支えられれば、児の安心を得られやすい。単に背面だけを枕や膝下クッションで支えるより、しっかりと抱っこすることや、バスタオルでくるむようにすることなどが、より有効である。

図5:姿勢と障害の関係、図6:寝具の違いによる仰臥位姿勢の変化
図7:向きぐせの修正

家森は図5のように「一方への向きぐせのある頚を屈し、顎を上げている児は舌が引き込んでいて、哺乳に時間がかかり、吐きやすい。肩は挙上し上肢を後退させ胸を突き出しており、思い切り泣くと皮膚色が悪くなり嚥下・呼吸の問題を示すことが多い」と指摘している*6)。

そのため、図5のような姿勢にならないような寝かせ方の工夫や(図6)、向きぐせの修正(図7)も発達上重要である。向きぐせ修正のポイントは、①頭部が体に対して正面を向かせることであり、解決法は頭の向きを変えるのではなく体全体を側臥位にする②反り返りに注意して両上肢は前方に出す③抱き方も常に「左右対称」を心がけることと指摘されている*7)。

図8:NICUにおけるポジショニングの一例

また、生理的な安定を図る上で重要な要素に姿勢変換がある。どんなに安定した姿勢でも、一定時間同じ姿勢をとり続けていれば、体重を支えている身体組織への挫滅が起こり、痛みや褥瘡の原因になる。

最低三つの姿勢で安定できるように日頃から心がけることが重要とされる。脊柱や骨盤の捻れの防止や呼吸改善のための骨盤後傾を目標に、仰臥位では、膝下三角クッションを使用し、股関節外転を防ぐためにサイドを高くすることが効果的である(図8)。側臥位は、下側の肩を圧迫しない高さの枕やロールタオルなどの使用と、下側下肢が圧迫されない工夫も必要である。腹臥位も頭部のコントロール機能の発達や、対称姿勢の獲得、上肢の抗重力筋の発達などの効果が期待できる*3)。

Ⅲ発達外来を受診する子どもたちの困り感

図9:3種類の構え反射の遷移、図10:保護伸展反応の遷移

乳児院の健診では、頸部・上肢帯の筋緊張・反り返りが強く向きぐせがあり、頭部の回旋が苦手な児にしばしば出会う。

 「反り返りの強い児を中枢性協調運動障害児として、外来で経過観察したが、不器用は個人差の範囲で、療育せず、脳性麻痺になることはなかった」と報告している小児科医もいる*8)。しかし、反り返りの強い児にポジショニングの指導が必要であるとの記述は見当たらず、残念である。

次に原始反射である構え反射の遷移(図9)と、保護伸展反応(パラシュート反応)の遷移(図10)を示した*9)。

私自身、原始反射は乳児期に自然に消失し、立ち直り反応、保護伸展反応を獲得して、安定した座位・立位・歩行が獲得できると思い込んでいた。しかし2001年、1歳半をすぎてしっかり歩行していた次女が、座位で後方に頭打ちし、後方のパラシュート反応が出ていないことに気づいた。

その後、保健センターの乳幼児健診で保護伸展反応の出現状況を確認するようになり、 2004年Medical tribuneで紹介された、Teitelbaumの論文に出会った*10)。

生後 6 か月の全乳児に傾斜試験(頭部垂直化反応)をルーチン実施すると,アスペルガー症候群(以下ASと略)児の多くを早期に発見し,治療できるようになるだろうというものである。全患児にすべての運動異常が存在するわけではないが、予備的観察から,ASに特徴的な“ぎこちなさ”の一部は,乳児反射の脱線に基づいていると考えてよいだろう。また、乳児反射は観察が容易で,早期発見のための徴候として使用できる。このような反射が長く持続し過ぎるか、あるいは発現すべき時期に発現しなければ、乳児の運動発達、続いてその他の行動的側面が影響を受けるだろう。

図11:後にアスペルガー症候群と診断された児

つまり、AS と自閉症の神経発達異常のマーカーとして、乳児反射を使用すれば容易に早期発見できるのである(図11)。

発達外来では、小児精神科からPDDと言われる自閉症圏(自閉症スペクトラム)や、AD/HD児をご紹介いただいている。その児の多くは不器用や体のバランスが悪く、自閉症の児の親からは「視線が合わない」との言葉をよく聞く。

アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-IV-TR)ではPDDの診断を優先し、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: 以下DCD)の病名を併記しないことになっている。麻痺などのはっきりした器質的な疾患がないにもかかわらず運動能力に問題のある子どもたちはDCDと呼ばれる。日本における有病率は不明であるが、DSM-VではDCDの有病率は5~11歳の子どもの6%に達すると見積もられ、性比は4:1で男児に多く、低出生体重児に有意に高率に見られること、特にAD/HDとの併存は約半数にみられ、PDDとの併存も高率と報告されている*11)、12)。

出生時に第一回旋や胎位・胎勢の異常、不正軸進入などのためか、出生後の不適切なポジショニングのためか、正中位指向とアライメントの発達が十分でない児が目立つ。向きぐせが残存して片側の頭部が変形している児や、左右どちらにも向けずに正面ばかりむいていると短頭(ぜっぺき)になっている児がいる*7)。特に、左右の向きぐせのある児は体幹と顔の正面が一致せず、視線が合わせづらく、追視や眼球運動に問題が生じている。

図12:非対称性緊張性頸反射(4歳児での残存検査)

私は2011年、小学校の中学年以降でも非対称性緊張性頸反射(ATNR)が残存し、後方の保護伸展反応が出現していない症例があると報告した*13)。立ち直り反応や姿勢反射の異常を持つ児は、パーキンソン病の高齢者と同様に、脊椎の軸を中心とした回旋運動、すなわち寝返りなどの動作が苦手である。同時に、手首・肘を回す、足首を回す、股関節を屈曲するなどの関節の連続的な動きがぎこちなく、蹲踞し続けるなど屈曲保持を維持することが苦手である。また、身体の正面方向に膝をしっかり屈曲保持できなければ、靴下を履くことも困難である。

図13:対称性緊張性頸反射(4歳児での残存検査)

幼児で非対称性緊張性頸反射(ATNR)が残存すると、四つ這い位で頭部を回旋する時、頭側の肘関節が屈曲し、顔側の肘関節は伸展する(図12)。

対称性緊張性頸反射(STNR)が残存すると、頸伸展時、肘関節・手関節は伸展し、股関節・膝関節は屈曲する。また頸屈曲時は肘関節・手関節が屈曲し、股関節・膝関節が進展してしまう(図13)。

これらの原始反射の長期残存は、正中位指向の発達・寝返りの困難性・対称的な姿勢や頭部挙上の発達・追視の困難(読書困難につながる)に影響を及ぼすことが指摘されている*14)。具体的には、年長児では自転車に乗って頭部を回旋させると、手ブレーキをかけられず、字を書いている時に頭部の大きな動きが加わる場合は、手の力が抜けたり、黒板を板書する時に字の大きさが不揃いになったりする。

このような原始反射が残存する児は、乳児期に四つ這いや高這いをしなかったり、高這い姿勢をとれなかった子どもたちが大半である。這わないということは、大腰筋・腸腰筋を使って股関節を屈曲できず、肩甲帯を使って上肢を動かす協調運動ができず、脊柱起立筋や腹横筋、腹斜筋などインナーマッスルのトレーニングが十分できないまま起立・独歩してしまったということである。

脊柱柔軟性や骨盤の支持性がなければ、床に手が着かず、パラシュート反応が十分獲得できていなければ、「天の橋立の股のぞき」のポーズができない。立ち直り反応が十分獲得されていないと、押されたり、体が接触するような動きは怖くて、集団遊びに入ることができず、自分を守るためにひとり遊びを好むことになる。頭が下がるポーズや手をついて加重するのが苦手で、跳び箱を飛び越せなかったり、雑巾がけができずサボっているように誤解されがちである。

また、図14のように項部を伸展して顎を引き保持し続けられず、肩甲帯・上肢の同時収縮が十分でなく、脚を抱え込んでのマットゆりかご(だるまさんゴロゴロ)ができず、逆上がりが苦手で、鉄棒・うんていにぶら下がれず、自身を支える力がついていない。

図14:腹臥位伸展姿勢と仰臥位屈曲姿勢

20年以上前から小学校では転んで手掌をすりむくのではなく、顔面の怪我をする児が増えていることが報告されている。運動会で転んだり、組体操で保持できないなどで前歯を受傷し、歯科受診する児童に共通しているのは、手に傷がないことである。体のバランスをくずしても、手で顔を守れないために、前歯を地面にぶつけてしまったと歯科医師は気づいている*15)。このような児は形成外科や歯科を受診するので、乳幼児健診を担当している小児科医はその事実を知らないままと思われる。

現在の乳幼児健診では、乳児期に這わなくても、寝返りが片方しかできなくても、寝返り移動(腹横筋・腹斜筋などを使って体幹の立ち直りを獲得する)をしていなくても、1歳6ヶ月頃までに独歩できれば問題にならない。発達障害を心の問題と捉えてしまっているのだから、乳幼児健診を担当している小児科医の責任が問われて然るべきだと思う。子ども達を取り巻く便利になりすぎた環境の中では、布団の上げ下ろしや和式トイレでしゃがむこともなく、日常生活で体力が養われないまま子どもたちの体の不幸(?)な変化に気づかず、気づけないままなのは残念ながら小児科医である。健診で「大丈夫です」と言われれば、母親は「異常ではない」と認識してしまうのが普通である。

だるまさんゴロゴロ (マットゆりかご)ができなくても、逆上がりができなくても、跳び箱が飛べなくても日常生活は送れる。事実、現東京都立小児医療センターの山田佐登留医師は、「縄跳び・スキップ・お遊戯などが苦手でも、それらは日常生活に不可欠なものではない。発達性協調運動障害を持っている子は、不器用であっても社会生活を問題なく送れることが多い。学齢期間中に苦手意識を持ち、強く自己評価を低下させたり、からかいの対象にならないように、いかに考えていくかが重要である…。苦手なことの訓練を無理強いすると、ますますその課題を嫌いにさせてしまうので、達成可能な興味の持てる課題から、段階的に練習を行う必要がある」ということや、「一部の困難は適正な訓練を元に改善できる可能性があることがわかった」と述べている*12)。

しかし、協調運動障害や不器用という実態は、危急時に自分の頭や顔を守る身体運動機能(大脳基底核の姿勢保持・歩行・筋緊張保持機能)が十分に発達していないことを意味する。はたしてこれを看過してよいものだろうか?

椅子や洋式トイレの生活が定着し、和式トイレの生活がなくなり、正座で食事をすることもなくなり、正木が指摘するように背筋力も年々低下し、足腰は弱くなっている。また、道場や体育館の雑巾がけは脊柱の柔軟性・大腰筋・腸骨筋などのインナーマッスルを強化し、準備体操の意味があったと思われるが、今ではめっきり減っている。

Ⅳ世代間で伝達しなくてはいけないこと

健やかな産褥経過のため、特に4ヶ月検診までの関わりがその後の発達に与える影響を考えると、退院時指導として、母親に乳幼児期の発達の概要を知らせることは大切である*6)。妊婦健診の段階から抱っこできる体作りの指導は重要である。また、退院時指導としてぜひお伝えいただきたいこととして

1. 首が座るまでの児の抱き方

図15:良い抱き方、図16:良くない抱き方

児の体をできるだけ水平にして、必ず首と頭を支えることが大切である(図15)。首がすわる前の児は、体の中で一番重い頭を支えるだけの筋肉や骨が十分に育っていない。首がすわる前から立て抱きにすると、重い頭や胴体を支えようとして、未熟な腹筋や背筋に力が入りすぎて体が緊張する。この緊張を続けていると、体に「反り」や硬さ(図16)となって現れることがあるため、児の発達に即した抱き方をすることが大切である*16)。おひな巻きやタオルハンモックで、姿勢コントロール・身体概念(ボディイメージ)・情緒の安定の前提条件となる生理的屈曲を保障し、母子がお互いにまっすぐに視線を合せることが、愛着形成の一歩を踏み出すうえで重要である。

2. 手遊びや「高い高い」「おしくらまんじゅう」などの体を使った遊びで発達を促す

3ヶ月で下肢の反復運動ができると、口から声を出し、4ヶ月で下肢の反復運動と笑いが同期して、声を出して笑う。6ヶ月で過渡的喃語(母音のみアー、アーなど)は上肢の反復運動と同期し、笑い声と一緒に出て、周波数も一致する。この時期に歌を歌いながら「かいぐり・かいぐり・おつむテンテン」などの手遊びをすることが、運動発達だけでなく言語発達を促す意味でも大切である*4)。図17は、短時間の遊び(かいぐりや下肢のぎっこんばったん)によって、反り返った air plane状態から、体幹ひねりや、おもちゃに手を伸ばすことや、足をつかんで遊んだりすることが可能となったことを示している。

図17:「はいはい」や足を持ってのひとり遊びなどをたっぷりと

正木はさらに、側弯症が発症しやすい時期として「おすわり」をする生後6カ月ころ、「立っち」ができる9カ月ころ、歩けるようになる18 カ月ころと指摘している。乳幼児であっても、やはり重い頭をささえるだけの「筋力」が必要で、日本では昔から赤ん坊に「高い、高い」をしたり、畳などの上で「はいはい」をたっぷりさせたり(図17)、自分から立ち上がって自然に歩くようになるのを待つ育児をしてきたと指摘している。これは自座位ができるようになる前にセット座位にすると、寝返りや這うなどの運動の流れの中で、立ち直り反応や保護伸展反応が獲得できなくなってしまうことを意味している。

おんぶの仕方も「背骨が垂れる」ような形であるため、日本の子どもは側弯症になりにくいのだと国際的に高く評価されていたが、いつの間にか、「側弯症がおこりやすい」育児、つまり乳幼児の胴体に筋力がつかない育児に変わってしまったことは残念である。

筋力が低下した大人は、子どもを「高い、高い」することもできなければ、児も筋力をつける機会を失う。学校体育の指導者や行政関係者に「腰の力をつける」という意識がほとんどなく、「体力が落ちている」と言われれば、「とにかく走れ」というイメージで物ごとが進められ、適切な対応がなされてこなかったことを正木は体育教育の当事者として反省している*1)。

正木は、「背筋力は、おそらく1週間に1回10 秒程度、全力で力を出す運動(じゃんけんで負けた子が勝った子を背負って歩くような遊びや、タオルでの綱引きなど)をすれば、現状維持から少し上向く」と提案している。立ち直り反応や保護伸展反応などを引き出す効果もあると思われる。

また、体を触れあい、とっ組みあって遊んでいると子どもは強く興奮する。けれど、あまり興奮が強いと友だちが泣いたりするので、グッと自分を抑制する面も育つため、「おしくらまんじゅう」など昔から子どもたちがやってきた「接触型」の遊びの重要性が指摘されている*1)。これらの遊びを通して立ち直り反応や保護進展反応を乳児期に獲得させるのが“手塩にかけた子育て”といえるのではないだろうか。

結語

発達のつまずきは、体の使いにくさ、作業の非効率、転倒などによる怪我から体を守りにくくなるなどの多くのハンディにつながり、予防医学的にも大きな問題である。発達のつまずきを固定化させないためには、原始反射の残存と、姿勢反射の獲得状況を正しく知ることと、問題の早期発見が大切である。

問題が見つかった時点で、できるだけ早くから発達を促すための保育ケアが必要であるにもかかわらず、適切で良好な保育ケアを提供できる体を持たない母親・助産師・看護師・保育士が多い。子どもの成長発達に大きな影響を与える女性の体作りは、胎児が成長する子宮内環境の改善にもつながる。

また、これ以上「育児能力の低下した社会」を作らないために、母子の体作りを基盤とした子育て支援・乳幼児保育・体育教育の充実を図ることは緊急の課題である。

思春期の性教育を介して保健・体育教育との接点があり、女性の生涯にわたる健康教育・母子保健のキーパーソンとしての助産師の皆さまの活躍を応援しております。

引用文献

  • http://www.min-iren.gr.jp/syuppan/genki/143/genki143_3.html
    いつでも元気 :No.143 特集 正木健雄さんが語る「どうなっている?子どものからだ」柔軟性と腰の力は落ちる一方 このままでは直立姿勢で働くことが困難に?
  • 学校における運動器検診モデル事業 : 京都府 立入克敏 京都府医師会運動器
    学校検診モデル事業小委員会 日本臨床スポーツ医学会誌 15(4), 90, 2007-10-15
  • 小児から高齢者までの姿勢保持 工学的視点を臨床に活かす
    日本リハビリテーション工学協会 SIG姿勢保持 医学書院(2007)
  • ここまで分かった小児の発達 (小児科臨床ピクシス19) 五十嵐隆、久保田雅也 中山書店(2010)
  • 正常発達―脳性まひ治療への応用 Jung Sun Hong , 紀伊克昌 金子 断行 他 三輪書店(2010)
  • 新生児の発達と退院時指導 家森百合子 ペリネイタルケア17,37-47:メディカ出版(1998)
  • ハイリスク児のフォローアップマニュアル―小さく生まれた子どもたちへの支援 厚生労働科学研究「周産期ネットワーク:フォローアップ研究」班 三科 潤, 河野 由美 メジカルビュー社(2007)
  • 乳児の発達のみかたのエッセンス―研修医のための最小限かつ簡単な 吉岡博 診断と治療社(2007)
  • Motor control  Anne Shumway-Cook Marjorie H. Woollacott PhD (2006)
  • Eshkol-Wachman movement notation in diagnosis: The early detection ofAsperger's syndrome Osnat Teiteibaum, Tom Benton, Prithvi K. Shah, Andrea Prince, Joseph L. Kelly, and Philip Teitelbaum PNAS 2004;101:11909-11914
  • 発達障害とその周辺の問題 斎藤万比古 宮本信也 田中康雄 中山書店 (2008)
  • 「日常診療で出会う発達障害のみかた」 市川宏伸/鈴村俊介 編集 中外医学社(2009)
  • 普通級に在籍する発達障害児の原始反射の残存とパラシュート反応獲得と上肢機能:加藤靜恵、岡本五十雄、多田武夫 リハビリテーション医学vol.48S269
  • PTマニュアル小児の理学療法 奈良薫監修 河村光俊 医歯薬出版(2005)
  • 抜かない歯医者さんの矯正の話―2000の症例から語る 鈴木設矢 弘文堂(2001)
  • 発達がわかれば子どもが見える 0歳から就学までの目からウロコの保育実践 田中真介監修 乳幼児保育研究会編 ぎょうせい(2009)