第28回日本助産学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART14

妊娠・分娩・産褥・新生児期のトラブル
―類人猿型骨盤の増加が、周産期医療に及ぼす影響―

目次

コーディネーター・座長からのごあいさつ
トコ・カイロプラクティック学院 学院長 渡部 信子

座長・演者経歴

演題1 女性骨盤は変化してきているのか
浜松医科大学 産婦人科家庭医療学 特任助教 鳴本 敬一郎

演題2 快適な妊娠・出産・育児の支援に注ぐ思い ~自身の経験を通して~
女性とこどものためのサロン Ohana 院長
トコ・カイロプラクテック学院 准講師 助産師 平山 小百合

演題1 女性骨盤は変化してきているのか

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浜松医科大学 産婦人科家庭医療学 特任助教 鳴本 敬一郎

浜松医科大学 産婦人科家庭医療学
特任助教 鳴本 敬一郎

Ⅰ. はじめに

骨盤の形態が分娩予後に影響する最も重要な因子の一つであることは周知の通りである。しかし、2007年のカクラン・レビューでは「児頭骨盤不均衡の予測として骨盤X線撮影による骨盤計測は、エビデンスに乏しく有益であるとは言えない」と、結論付けた *1)。また、出生前のX線被爆と小児白血病発生リスクの関連を指摘したデータが報告されたこともあり *2)、X線を用いた骨盤形態そのものの研究は下火になった。ただし、骨盤についての認識を深めることで、「分娩」という現象をより興味深く捉えることができる。今回の講演では、私達の研究結果を含め、骨盤形態に関する文献をレビューしながら、骨盤の面白さを紹介する

Ⅱ. 骨盤の解剖と機能的柔軟性

図1 骨盤の解剖

骨盤は一対の寛骨(腸骨、恥骨、坐骨が骨融合した骨)と、仙骨、尾骨から成り、左右の腸骨と仙骨が仙腸関節で、左右の恥骨が恥骨結合で連結している。骨盤はこれらの連結点で可動性を保つことが可能となり、分娩において重要な機能を果たしている。具体的には、(A)仙骨尖の後上方移動、(B)仙骨底の後下方移動、(C)寛骨の蝶番運動といったメカニズムで、母体の体位によって骨盤外計測による骨盤諸径が増減することが報告されている *3)。

Ⅲ. ヒト以外の霊長類とヒトとの骨盤形態や分娩の違い

骨盤形態において、ヒト以外の霊長類(例えば、ゴリラ、チンパンジー、オラウータンなどの類人猿)とヒトとの相違を認識することで、ヒトの骨盤の特徴をより明確に理解することができる。ヒト以外の霊長類では、骨盤入口面、濶部面、出口面のいずれにおいても、横径より前後径の方が長いが、ヒトの骨盤は、入口面の長径と出口面の長径が直角に交わる形状になっている *4)。

また、骨盤の前方と後方の領域に注目すると、サルでは骨盤後方の幅が最も広くなっているが、ヒトでは骨盤前方の幅が広くなっている *4)。一方、新生児は、ヒトを含めた全ての霊長類において児頭の前後径が最も長く、後頭部が広く硬くなっているので、サル(非ヒト霊長類)では幅の広い骨盤後方に児の後頭部が位置するように、ヒトでは骨盤前方に児の後頭部が位置するように分娩が進む *4.5)。つまり、サル(非ヒト霊長類)などでは後方後頭位で、ヒトでは前方後頭位で胎児が通常分娩とされている。

Ⅳ. 骨盤の分類

図2 骨盤の分類

100年以上も前から骨盤形態の分類が研究に用いられている代表的な例として、Turner、Greulich、Thomsらの、骨盤入口面の前後径と横径の差から分類する方法と、Caldwell、Moloyらの、骨盤入口面の形状から分類する方法がある *6-8)。主要な形状として4つ示されているが、実際はそれらの中間型(混合型)が多くみられる。また、骨盤入口面以外にも、骨盤の中央面や出口面、さらに恥骨角や仙骨の傾き・湾曲の程度など、様々な因子によって骨盤は形付けられている *8)。

Ⅴ. 日本人女性の骨盤形態の疫学的研究

日本での骨盤形態の疫学的研究について振り返ってみる。

1) 骨盤発育の過程を考察する観察研究

土谷ら(1961)は一般高校生230名と高校陸上競技者80名の骨盤径線や身体的特性(身長、体重、腹囲、胸囲、肩幅など)を調査し、15歳では骨盤は既に完成の状態にあることを示し、小学校高学年~中学生へと調査の対象年齢を下げる必要性を述べている *9)。

荒木ら(1985)は、昭和48年当時小学校1年生だった男子95名と女子104名に対して、骨盤径線の変化を12年間追跡したところ、初潮発来直後の11歳女子の骨盤径線の発育が著明であり、長管骨の発育に対する骨盤骨の発育度合(骨盤指数)が女子では10歳以降で比較的大きい(男子では12歳以降指数は下降する)ことを示した *10)。また、骨盤入口の横径と前後径の相対的な発育度合として、大転子間径と外結合線の比をとると8-10歳までは横径よりも前後径が、それ以後は前後径よりも横径の発育速度が相対的に上回ることを示唆している *10)。

渡辺(1961)は1歳から17歳の合計1,300名の健常者を対象とし、骨盤部X線写真を撮影し分析している *11)。骨盤形態に関連した発育過程として、乳児時代は横径が前後径に比べて発育が著明であり、幼児期では前後径が横径の発育を上回り、9歳頃から前後径と横径の発育はほぼ平行するか、あるいはわずかに横径の発育が相対的に前後径を上回っていることを指摘した *11)。

大沼ら(1977)は6-14歳の男女について、骨盤外計測、身体一般計測およびFSH、LH、E2などのホルモン値を横断的に測定し、それらの相関について調査したところ、卵巣からのエストロゲン分泌が増大する月経発来直前に、骨盤は身長と共に著しく発育し、長管骨に比べて骨盤の発育の方が有意に大きいことを示している *12)。身長の発育が止まった後、骨盤は月経発来後少なくとも1年間はさらに発育し、かつ前後径が横径に比べて有意差をもって更に成長しており *12)、荒木や渡辺らの観察結果と時間軸はやや異なるが、着眼点は類似している。

これらの研究より、月経発来前後の骨盤発育が著しく、同時期に骨盤の前後径が横径よりも比較的発育度合いが大きいが、それ以降は横径が前後径を上回るという発育過程をしていると言える。また、思春期後半では骨盤形態は、ある程度固定化していると言えよう。

2) 現代女性の骨盤形態の観察研究

次に、骨盤発育の結果、どのような骨盤形態に至り、それぞれの骨盤形態が人口のどのくらいの割合を占めるのだろうか?

高橋らの研究 *13)ではX線骨盤計測で評価された1960年代の186例と1980年代の210例の骨盤について、Brim Depth Index(前後径と最大横径との比率、以下BDI)*14)という指標を用いて入口面形態を定義・分類した上で検討し、骨盤の形態的変化を調査した結果、類人猿型は7.6%から25%へと増加し、扁平型は約32.4%から16.8%へと減少していた。

骨盤外計測を用いた研究でも同様の傾向が示唆されている。小松らは大学院の18-29歳の未婚・未経産女性91名を対象に、土井らは健康成人女性28名を対象に骨盤外計測を行い、外結合線の延長がみられることから、骨盤入口面前後径が伸長していることを指摘している *15-16)。しかし、18-22歳の女子大生61名の骨盤外計測から、骨盤前後径が短く成熟期早期に入っても扁平なままである可能性を指摘した研究もある *17)。

外結合線と産科的真結合線、棘間径と骨盤入口面の最大横径というように、X線による骨盤計測と骨盤外計測には相関性があることが示されている *18)。しかし、高橋らの研究以降、実際に現代女性の骨盤形態がどのように変化してきているのかを、X線のデータを用いて調査した疫学的研究はなかった。

そこで私達は、人口約5万人の地方都市総合病院において、2010年から2012年に分娩した妊婦326人の、過去に撮影されていたX線骨盤計測データを、後方視的に比較し解析した。

妊婦326人のうち、経産婦139名(42.6%)、初産婦187名(57.4%)、平均年齢30.7±4.7歳、平均在胎週数39.2±1.2週、平均身長157.7±5.5cm、平均体重52.2±10.3kg、平均BMI20.9±3.6kg/m2であった。

BDIによる分類では、類人猿型46.3%、女性型43.6%、扁平型10.1%と類人猿型が女性型の割合を上回っていた。さらに、高橋らの研究結果と比較すると、この50年間で類人猿型の割合はおよそ2倍近くに増加し、女性型は約15%減少している。

今回の研究は、高橋らの研究と同じ地域内で行っていないため、直接比較することは困難であるが、私達が分析した既存のデータは一般妊婦を対象にしたものであったため、傾向として類人猿型の割合が増加していることは示唆できる。

妊婦・新生児の背景の経時的推移においては、平均身長と骨盤入口面積が増加し、胎児の平均出生体重はわずかに減少している傾向がみられる。過去の論文では、母体の身長と骨盤前後径や骨盤入口面積が直線的に比例している *19)、という指摘があるが、今回の私達の研究結果では、母体身長と骨盤前後径(r=0.47)および骨盤横径(r=0.40)、そして骨盤入口面積(r=0.69)との間に正の相関が認められたが、母体身長とBDI(r=0.053)、BDIと骨盤入口面積(r=-0.030)には相関がみられなかったことから、「母体身長が高くなるにつれて骨盤前後径と骨盤横径は増大する傾向にあるが、前後径と骨盤横径の比率(BDI)に基づけば、母体身長から骨盤形態、また骨盤形態から骨盤入口面の大きさを予想する事は難しい」という結論になる。

つまり、この50年間で、類人猿型の骨盤の割合が増加していることを示唆できるが、その理由が母体の身長が高くなっているからだとは言えない。

Ⅵ. 今後の展望

過去の研究と私達の研究から「現代女性の骨盤の多くは類人猿型をしている可能性がある」ということが分かってきた。しかし、個々の骨盤形態を最終的に決定する因子や、この経時的な形態変化のメカニズムについての詳細は、未だ解明されていない。骨盤腔の発育は決して一様ではなく、性別、年齢、部位によって極めて複雑な変化をとげながら完成していく *12)。骨の集合体である骨盤形態は、寛骨の発育と極めて密接な関連があり *12)、思春期の間に多数の骨格要素の分化成長によって決定され *20)、この分化成長は身体的ストレスや栄養不足などの環境要因によって影響を受ける可能性がある *21)といわれている。

骨盤形態の形成に至るプロセスと、それに関わる因子を同定していくことは、思春期前後の介入の可能性を探求するうえで、非常に重要と思われる。今後も、女性骨盤に関する研究が様々な視点から行われ、骨盤の発育から臨床における骨盤の機能まで、さらに理解が深まっていくことを楽しみにしている。

参考文献

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