第61回日本新生児成育医学会・学術集会
ランチョンセミナー

新生児医療従事者にできること

目次

座長のご挨拶
東京女子医科大学 名誉教授 仁志田 博司

座長/演者経歴

演題 新生児医療従事者にできること
福岡新水巻病院 周産期センター長 白川 嘉継

演題 新生児医療従事者にできること

LINEで送る

福岡新水巻病院 周産期センター長 白川 嘉継

Ⅰ. はじめに

妊娠期間中、産道通過時、出生後に関わる周産期医療は、人生の質に大きく影響を及ぼす、人間の一生において最も重要な医療です。

その中に居る新生児医療従事者の多くは、お産の立ち会いから、子どもとの直接的な関わりが始まります。まず母と子の出会いに感動し、母子の心の支えとなれるように努力をしているうちに、幸せなお産が訪れるようにとも願うようになります。

Ⅱ.むき出しのいのちの子どもたち

昭和61年、ある産科施設から分娩の立ち会いの要請があり、蘇生の準備をしてお迎えにあがりました。はるかに先輩の産科医数名とご家族から、今回が第4子であることと、第1・3子が24週未満の流産児であったがために全く治療が受けられなかった悲しみから、今回はぜひとも蘇生と治療を受けたいということを強く希望され、蘇生、搬送、加療を行うことになりました。在胎22週5日468g男児でした。残念ながら、11時間の短い人生でした。家族は剖検を承諾され、開頭も行いました。脳室内出血が見られ、脳回も見られず、脳実質は均一です。皮膚は角質層が無く、皮下の結合組織も少なく瑞々しい状態です。ゴム手袋の指の部分で作った袋を陰茎に当て、11時間でたまった尿は4mlでした。尿中電解質の組成は血性と同じでした。この児が残してくれた生きた証はその後、平成2年に出生した22週児や平成3年に出生した21週児の生命の支えになりました。

平成2年に出生した22週の1症例は再入院もなく経過したものの、残念ながら未熟児網膜症で失明し、重度の障害も残しています。患児は注意欠如多動症児に見られる衝動性や多動が強く、抗けいれん薬と並行してメチルフェニデートを内服しています。そして安定した経過で、難病のこども支援全国ネットワークが主催するキャンプのうちの一つであります、九州熊本の阿蘇で行われる、『阿蘇ぼう!キャンプ』に平成16年から毎年元気に参加されています。両親、姉と共に参加し、笑いが絶えません。いのちしかなかった児は、家族に喜びと勇気を与えることができる存在になっています。難病のこども支援全国ネットワークが主催するサマーキャンプは全国8か所で毎年開催されています。そのすべてに新生児科医が関わっています。

C型肝炎の診断が可能となった平成3年以前に出生して輸血を受けた児は、輸血後のC型肝炎は避けられませんでした。最近になり難治性の1b型もインターフェロンを使わずに内服だけで治療できるようになり、患児も内服治療でウイルス消失に至っています。

Ⅲ. 新生児医療の進歩

その後新生児の救命率、神経学的予後は飛躍的に改善しました。

平成21年に、22週6日481gで出生した男児と26週5日822gで出生した女児の双胎は、予定日にはそれぞれ、1994g、2162g、修正1か月にはそれぞれ3080g、2800gでした。未熟児網膜症はベバシズマブの局所投与で問題なく経過、早産低出生体重児でも成長し、発達は一見して問題のない時代になっています。

Ⅳ. 発達症の増加、早産児と発達症

知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す児童・生徒の割合

表1 知的発達に遅れはないものの学習面や
行動面で著しい困難を示す児童・生徒の割合

(文部科学省.2002年10月 対象となった児童生徒数41,579人)

知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で	著しい困難を示すとされた児童生徒の割合

表2 知的発達に遅れはないものの学習面又は
行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の割合

(文部科学省.2012年2~3月 対象となった児童生徒数53,882人)
(小学校:35,892人、中学校:17,990人)

出生数の増加に反して、低出生体重児の出生率と生存率はともに改善してきています。しかし、発達症は増加しています。2002年に文部科学省が学校教師を対象として知的発達に遅れのない学童を対象として行ったアンケート調査の結果、6.3%の6歳児に学習面か行動面のいずれかに異常が見られることが報告され(表1)、2012年の再調査の結果その割合は6.5%に増加していました(表2)。わずか0.2%の増加のように見えるものの、特別支援教育を受けている児は2.9%に増加しており、6歳児の約10%が苦労しながら学んでいる現状が示されました。自閉スペクトラム症と診断された小児の周産期危険因子が東らにより報告され*1)、低血糖が後にもたらす影響も予想以上に重大で、血糖値35mg/dl未満の低血糖を1回経験した小児では、10歳時点の標準テストで、読み書き、数学の得点が学年相当レベルに到達していたのは32%にとどまったとも報告されています*2)。低出生体重児に注意欠如多動症(AD/HD)の合併頻度が高いことは共通認識となってきたところで、今年4月、医療向けプラスチックチューブなどに使用されるプラスチック軟化剤であるフタル酸エステルが小児のAD/HDと関連することが第98回米国内分泌学会議(ENDO 2016)で報告され、今後対応が必要と考えられます。当院でも、むしろAD/HD合併のない超低出生体重児は稀と感じています。低出生体重児は不注意優勢型のAD/HDが多く、見過ごされがちなので、注意深い観察が必要です。従来AD/HDの診断に、WISCは適切ではないと考えられていますが、実際試験をしてみると、不注意優勢型では検査者からの質問の内容を聞いているようで聞き落したり、違うことを考えたりして、実際の能力より低く評価されてしまうことが多々あります。特に言語性IQの見かけの低下が見られる可能性があるものの、超低出生体重児は発達が遅れてもしかたがない、と世間一般には考えられる可能性があります。新生児科医がフォローアップに参加して不注意優勢型のAD/HD診療を強化する必要があります。治療選択肢が増え、メチルフェニデート、アトモキセチンの投与はサーファクタントの投与に似た、劇的な改善が得られますので、新生児医療従事者も長期のフォローアップに加わる必要があると考えています。

Ⅴ. チャウシェスクの子どもたちが残してくれたこと

1965年から1989年までのチャウシェスク政権下のルーマニアでは多産政策がとられました。しかし、貧しいルーマニアの家庭は子どもを育てることができず、望まぬ子を国営の施設に入れることに疑問を感じない時代が長く続きました。1989年には遺棄された、施設に収容された子どもは17万人を超え、政権崩壊10年後の1999年に施設で暮らす子どもはまだ10万人を超えていたようです。そこは尿のしみ込んだ囲い付きのベッドを複数で使用し、12~15人の子どもを1人の大人が養育する環境です。そのような養護施設の子どもをいつ里子に出すかによって、その後の発達予後を調査する試験が行われました*3)。出生後、最初の2年以上を施設で暮らした子どもは、それ以前に施設を出た子どもや施設に入ったことがない子どもと比べると、3歳6か月時点での生活指数が低く脳の活動は鈍いことが示されています。母親、あるいはその代理となるものの養育は遅くとも2年以内に始められる必要があるように思われます。

Ⅵ. 虐待防止としての周産期医療

1.Skin to skin contact カンガルーケアの重要性

カンガルーケア導入前の平成2年調査

出生体重、入院期間別で分類した母親の育児行動
退院3か月以上経過して行った、母親へのアンケート調査で、
よく行ったと回答した行為の割合

図1 カンガルーケア導入前の平成2年調査

カンガルーケア導入後の平成10年調査

出生体重、入院期間別で分類した母親の育児行動
退院3か月以上経過して行った、母親へのアンケート調査で、
よく行ったと回答した行為の割合

図2 カンガルーケア導入後の平成10年調査

2000年に児童虐待防止法が施行されてから、すべての医療従事者が減少に向けて努力しているにも関わらず、虐待相談件数は増加の一途をたどっています。虐待の概念が広がってきたこと、これまで別の対応になっていたことが通報されるようになったこと、事実誤認であったことなどが3分の1ほどを占めていることも統計上の数字を押し上げている理由の一つです。しかし、実際に増加していることは否定できません。社会環境が悪化していること、現行の対策に誤りがある可能性があることが理由として考えられます。地域社会が崩壊し、本来社会で行うべきであった育児が私化され、親子機能不全、あるいは子育ての失調が起こっていることが原因とも考えられます。母親が子どもと接する苦労を少しでも軽減し、子育ての失調を防ぐために、元聖マリアンナ医科大学教授の堀内勁先生からカンガルーケアを紹介され、1995年(平成7年)から開始しました。平成2年と平成10年に新生児集中治療室退院患児の家族を対象として、退院3か月以上経過した後に郵送でアンケート調査を行い、母親がよく行ったという育児行動を比較してみました。カンガルーケア導入後は、新生児集中治療室に長期間入院し、繰り返しカンガルーケアを行った母親の方が、「よく行った」と回答した育児行動の割合が増加していました(図1,2)。この効果はオキシトシンを介した、脳の母性化によるものと考えています。

早産防止で入院していたある母親は、30週にコントロール不良となり帝王切開で出産しました。第5子でした。母親は早産防止で入院中に離婚の調停を行わざるを得ない状態であり、精神的にも不安定でした。しかし、出産後は新しいパートナーと連日カンガルーケアを行い、37週に退院できました。第1子から4子の育児は行ったことがなく、4名とも一緒に暮らした経験はありませんでした。5人目で初めての育児です。退院後も片道1時間の道のりを欠かさず定期通院しています。

2.助産院の仕事

周産期センターに隣接する福岡看護専門学校水巻校に産婦を助ける助産師を養成すべく助産学科を併設し、校名は後に福岡水巻看護助産学校に変更されました。

助産学科認可に先立ち、家族に囲まれた、幸せなお産を護れる助産院の永遠の継続を夢見て、同看護専門学校のすぐ隣に助産院を開院しました。小児科の外来で様々な家族と接しているうちに、Skin to skin contactができない、あるいは解離して別の人格となって子どもや医療従事者と接する母親に出会うようになり、分娩前からの虐待防止、また、トラウマを持った母親の過去を妊娠中やお産のとき、産褥時を通して過去を修復できるような、お産も行いたかったのです。しかし、すべてのお産が助産院でできるはずはなく、早産防止や、危険なお産はすぐ隣の周産期センターで行うことになります。

産む力と生まれる力に大きく頼る助産院では、母親の体作りはとても大切です。利便性が追求された現代社会では、生活様式の変化から、全身の靭帯や筋肉が緩みすぎているようです。小児でも筋力低下は顕著で、かつて行われた背筋力テストは、テスト自体で腰を痛める子どもが増えることを理由に1997年を最後に1998年に中止されました(図3)。

図3  背筋力指数(背筋力/体重)の年次推移
図4  日本の出生者数とトコちゃんベルトの販売本数の推移

図4 日本の出生者数とトコちゃんベルトの販売本数の推移

もともと妊娠をするとリラキシンの作用で骨盤は広くなりますが、筋力が弱くなったために緩みすぎる可能性があるので、助産院では骨盤ケアベルトを用い、下がった子宮などの内臓を上げる、緩んだ骨盤を支える、ゆがんだ骨盤を整えることにより早産防止の一助としています。骨盤ケアベルトは多くの妊婦の支持を得て、毎年20%あるいはそれ以上の妊婦が購入しているのが現状です(図4)。妊産婦を支えるグッズの一つとなっています。

3.複雑性心的外傷後ストレス障害の母親とともにEMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)

助産院で助産師の力を借り、お産と母乳育児を実践しても、子どもの泣き声に耳を塞ぐ、子どもに近寄れないなど生き辛さを抱える母親がいます。同じ悩みを持ち、産褥入院してくる母親もいます。幼少期の成育環境により生じてしまう複雑性心的外傷後ストレス障害(complex PTSD)を持ち、子どもの泣き声に自分の心が揺さぶられるのです。現在の環境には大きな問題がない、complex PTSDの母親には助産院でEMDRによるトラウマ処理を行います。かつてはカウンセリングを行っていましたが10年単位の歳月がかかることもあり、その間に子どもが成長し成人してしまうような事態がありました。EMDRによる精神療法を行い、たちまち改善する姿に魅せられています。周産期医療は虐待防止に欠かせない医療です。

Ⅶ. おわりに

新生児医療は人の一生に大きく関わり、様々な分野につながり、広がる医療です。家族と共に子どもの未来を夢見て喜びを共有していける医療です。そこには夢とすべての感動があります。

引用文献

  • 東晴美、毛利育子他.自閉症スペクトラム障害と診断された小児の周産期の危険因子.日本未熟児新生児学会雑誌.2013;25(2):177-189
  • Kaiser JR, Bai S, et al. Association Between Transient Newborn Hypoglycemia and Fourth-Grade Achievement Test Proficiency: A Population-Based Study. JAMA Pediatrics.2015;169(10):913-921
  • Ross E. Vanderwert, Peter J. Marshall, et al. Timing of Intervention Affects Brain Electrical Activity in Children Exposed to Severe Psychosocial Neglect. PLoS One.2010;5(7):e11415