第12回日本周産期メンタルヘルス学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART16

妊娠・分娩・産褥・新生児期のトラブル
―心と体はつながっている―

目次

座長のことば

座長経歴

演者経歴

演題1 トコちゃんの骨盤ケア教室が女性にもたらす変化
~2時間でなにがどう変わる?~

助産院大地 院長 助産師 山口 香苗

演題2 骨盤輪支持で、心身の変化を感じてみよう!
トコ・カイロプラクティック学院 学院長
トコ助産院 院長 助産師 渡部 信子

演題1 トコちゃんの骨盤ケア教室が女性にもたらす変化
~2時間でなにがどう変わる?~

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助産院大地 院長 山口香苗

助産院大地 院長 山口香苗

Ⅰ. はじめに

私が骨盤ケアに出会ったのは、今から10年ほど前、総合病院の周産期センターに勤務していた時だった。しかし、教育現場に身を移してからは、骨盤ケアの実践から離れていた。そして4年前、個人クリニックに就職したとたん、5年ぶりにお産の現場で出会った母子の体にことごとく衝撃を受けた。垂れ下がり前に突き出た腹部の妊婦や、早産・逆子・難産・仮死・出血多量の増加など、挙げればきりがない。一番衝撃を受けたことは、新生児の顔であった。出生直後から目の大きさや頬のふくらみが左右で大きく違ったり、顎が左右にずれていたり、顔がカタカナの“ナ”や“キ”に例えられるほどゆがんでいる児が次々と生まれた。そんな児の母親を見ると、ほとんど妊娠・分娩・産後に何らかのトラブルを抱えていた。

「妊産婦の体に異変が起きている!」と直感した私は、9年ぶりに骨盤ケアを学び直した。骨盤ケアをクリニックで始めて以来、私が最も情熱を注いできたもの、それが「骨盤ケア教室」であった。クリニック勤務を辞め、助産院を開業してからも骨盤ケア教室に力を注いでいる。そこで今回、その教室で行っていることが、参加した女性にどのような変化をもたらすのかを紹介する。

Ⅱ. トコちゃんの骨盤ケア教室とは?

この教室は、全国17都道府県24カ所で行われている。北は宮城県、南は鹿児島県、残念ながら栃木県では、まだ行われていない。教室担当者は、トコ・カイロプラクティック学院認定の、トコちゃんベルトアドバイザーの資格を持った助産師である。

有限会社トコちゃんドットコムの協力を得て、全ての教室で“基本的な骨盤ケア”(図1)を“安い料金”で学べる。教室プログラム、教材、付録(アンダー腹巻など)も、全て同じである。

図1 骨盤ケアの三原則

図1 骨盤ケアの三原則

図2 骨盤ケア教室プログラム
図2 骨盤ケア教室プログラム

教室参加者は、妊産婦や子育て中の母親に限られたものではない。教室担当者が地域の状況に応じて決めることができ、小・中学生や大学生から60代の女性まで、幅広い世代を対象としている。

教室の内容は基本的に全国共通で、2時間かけて図2のメニューに基づいて行われている。

Ⅲ. 教室の内容

1. 教室の目的

この教室の目的は、「快適な毎日を送るための体作り」である。「快適な毎日」とは、痛みや不調がないだけでなく、精神的にも快適であることが重要である。妊娠中の精神状態が、子どもの気質に影響すると言われている*1)。これは、子育て期においても同様である。にこにこと笑顔で元気な母親と、痛みで顔をしかめ、辛そうにしている母親。子どもが好むのは、どちらであろうか。

女性が笑顔で元気になる、そして胎児や子どもたちも元気になる。この一助となることを、私たちは大きな目的としている。

2. 教室参加の動機

参加者に教室への参加動機を尋ねると、「腰背部痛」、「恥骨部痛」、「股関節痛」など、痛みの緩和が最も多い。ひどい時には、足を引きずって参加する人もいる。さらに、隠れ目的として多いのが、「尿漏れ」である。いまや妊婦のほとんどに尿漏れがみられ、産後数年経過しても、また、妊娠経験がなくても悩んでいる人が多い。現代人に、“シモのトラブル”が急増しているのだ。薬局の生理用品コーナーを見れば、一目瞭然である。今や棚の半分のスペースに、尿漏れ対策用品が並んでいる。もちろん介護用品ではない。

このような悩みのある人の生活が、果たして快適であるだろうか。

今回、トコちゃんドットコムの骨盤ケア教室では、教室前後にアンケート調査を行った。「痛み」や「不安」など5項目の数値が、2時間の教室でどのように変化するのか、比較検討した。

<アンケート内容>

・教室への参加動機 ・生活スタイル(自宅で座る場所、座り方、移動手段) ・現在の体の状況:「痛み」、「不調」、「不安」、「イライラ」、「気分の落ち込み」を10段階で選択。
(0は痛みなし。10は想像できる最高の痛みや症状がある。)

Ⅳ. アンケート結果

アンケート回答者412名中、有効回答が得られた401名(有効回答率97.3%)を分析に用いた。

1. 教室参加の動機(複数回答可)

図3 教室参加の動機(複数回答)
図3 教室参加の動機(複数回答)

教室に参加した動機は、トコちゃんベルトについての関心が最も多く304名、次に骨盤ケアへの関心が196名、腰痛などの不快症状が152名であった(図3)。参加者と話していると、実際のところ、初産婦の場合は尿漏れを訴える人が多い。経産婦の場合は、「1人目のお産が進まなかったから」、「子どもが育てにくかったから」、と様々な理由を述べる。“シモのトラブル”は、周囲に訴えにくい症状である。トコちゃんベルトをなぜ欲しいのか? なぜ骨盤ケアに興味が出たのか? その原因や過程を聞くと、多くの人が妊娠中~産後まで、なんらかのトラブルを起こしている。

そして、産後の人のほとんどが言う台詞が、「もっと早く骨盤ケアをすれば良かった」である。これは、全国の教室担当者が、必ず1度は聞く言葉である。

2. 普段座る場所

図4 家で座る場所は?(複数回答)
図4 家で座る場所は?(複数回答)

自宅で普段座る場所は、ソファ227名、椅子195名、床にそのまま123名の順で多かった(図4)。床に座り込む、しゃがむという経験が、かなり少ない様子がうかがえる。洋式トイレやロボット掃除機の普及など、日常生活の中で、しゃがむという経験が極端に少なくなっている。これが、骨盤を支える筋力の低下、すなわち女性の骨盤弱体化につながる一端となっている。

3. 普段の座り方

図5 普段の座り方は?(複数回答)
図5 普段の座り方は?(複数回答)

普段の座り方は、あぐらが154名、足を伸ばして座る109名、横座り・スマホ座り(仙骨座り)が各92名の順で回答が多かった(図5)。女性が避けた方がいい座り方は何か?「ペタンコ座り(割座)(図6)」、「通称 スマホ座り(仙骨座り)(図7)」、「横座り」が避けて欲しい座り方である。

ペタンコ座りは、坐骨間を広げ、内臓を下垂させる。スマホ座りは、首に大きな負担がかかり、仙骨で座ることで、骨盤が歪みやすい。横座りは、片方の坐骨のみに荷重がかかり、骨盤の変形を引き起こす。現代女性の緩んだ骨盤では、座り方ひとつで、骨盤の歪み、姿勢の歪みにつながる。そのため、教室開始時に座り方のチェックと指導が入っているのである(図8、9)。

図6 ペタンコ座り 図7 スマホ座り 図8 正座 図9 イス

4. 日常の移動手段

図10 日常の移動は?全地域(複数回答)
図10 日常の移動は?全地域(複数回答)

日常の移動手段では、徒歩202名 、車187名、電車122名の順で回答が多かった(図10)。

主な移動手段が車である地域では、歩かない女性が増えている。さらに日常生活の変化により、しゃがむ機会も激減した。そのため、女性の骨盤を支える力も増大する妊娠子宮を支える力も、弱くなっている(図11)。

図11 日常生活の変化により、骨盤の弱体化が生じている
図11 日常生活の変化により、骨盤の弱体化が生じている

5. 教室前後の心身の変化

(1)心身の状態について、5項目10段階での回答結果は、Wilcoxonの符号付順位和検定にて統計解析を行った。P<0.005を有意差ありとした。

教室前後の心身の変化

(2)5項目のうち、「痛み」「不調」を身体面項目。「不安」「イライラ」「気分の落ち込み」を精神面項目として、2群に分けた。

図17 身体面の変化 図18 精神面の変化

検定の結果、いずれの項目においても、教室後の数値が有意に減少した。

骨盤ケア教室によって、身体面、精神面双方の苦痛が軽減したのである(図17、18)。

6. 教室終了後の感想

参加者たちが教室中に感じる具体的な効果は、「子宮の位置があがった(図19、20)」、「肩の高さが揃った」、「赤ちゃんの動きが良くなった」、「おへそが真ん中に来た」、「子宮が温かくなった」、「息がよく入る」、「姿勢が良くなった」など、様々である。

図19 教室参加前の腹部 図20 教室参加後の腹部

助産師側からみた効果は何か。上記の感想ももちろんだが、何よりも参加者の顔色が良くなる。自己紹介の時に小さかった声も、大きくなる。そして笑顔が増える。これが何より嬉しい反応である。

<アンケートより:教室終了後の感想>

教室終了後の感想

7. アンケートのまとめ

2時間の骨盤ケア教室が、どのような効果をもたらしただろうか? 今回の調査により、教室での体験が、女性の身体面と精神面、双方の不調を軽減させる効果があることが分かった。骨盤ケア教室で、私が最も気を付けていること。それは、骨盤ケアの楽しさを伝えるということだ。持っている知識を提示する、体操を教える、これだけでは骨盤ケアの魅力は伝わらない。座り方で、体操で、ベルトで骨盤を支えることで、どこがどう変化したか? これら、ひとつひとつを参加者と確認している。

変わった! 楽! 嬉しい! こんな気持ちが芽生えた時が、お互いにとって、一番嬉しい瞬間である。「快適な毎日を送るための体作り」は、自分自身のケアで手に入れることが可能である。

Ⅴ. おわりに

女性の体の不調が、年々増加傾向にある。思春期女性の月経不順、不妊、難産、産後うつ、育児ノイローゼ、子宮脱など挙げたらきりがない。しかし、その予防のために行われている活動は非常に少ない。骨盤ケアは、女性の体を健康にするノウハウを多数含んでいる。女性の健康増進のために、子どもたちの健やかな成長のために、みんなの笑顔のために、骨盤ケアは大きな役割を担っていると確信し、日々ケアに当たっている。

皆さんがこれから出会う人たちに、何か有効なケアはないか?と思った時、自分自身の体に不調を感じた時、ぜひ「骨盤ケア」を思い出していただきたい。いつか、骨盤ケア教室が全都道府県で開かれ、皆さんの健康を支える手助けとなることを、心から願う。


参考文献

  • トマス・バーニー,パメラ・ウェイントラウブ,千代 美樹,日高陵好.胎児は知っている母親のこころ―子どもにトラウマを与えない妊娠期・出産・子育ての科学.日本教文社,2007,406p