第12回日本周産期メンタルヘルス学会学術集会
ランチョンセミナー 骨盤ケアで改善! PART16

妊娠・分娩・産褥・新生児期のトラブル
―心と体はつながっている―

目次

座長のことば

座長経歴

演者経歴

演題1 トコちゃんの骨盤ケア教室が女性にもたらす変化
~2時間でなにがどう変わる?~

助産院大地 院長 助産師 山口 香苗

演題2 骨盤輪支持で、心身の変化を感じてみよう!
トコ・カイロプラクティック学院 学院長
トコ助産院 院長 助産師 渡部 信子

演題2 骨盤輪支持で、心身の変化を感じてみよう!

LINEで送る
助産師 渡部 信子

トコ・カイロプラクティック学院 学院長
トコ助産院 院長 助産師 渡部 信子

Ⅰ. 楽しい思い出が何もなかった子ども時代

私は4人兄妹の一番下、母が36歳の時に生まれた。物心ついた頃からしばしば朝目覚めると立てないことがあり、その度に整体(?)に連れて行かれ、歩けるようにしてもらっていた。子ども同士の外遊びを整体師(?)から禁止され、保育園ではイジメにあい退園。小学校に入ると走るのもボール投げも全てがクラス最低、ゴム跳びや卓球なども下手で遊びの輪に入れず、「私は人一倍体が弱い」と自覚していた。中学校に入学した時に「何とかこの体を変えよう」と決意してバレーボール部に入った。しかし、同級生のように俊敏に動けず、夏には左足の爪先まで痺れ、秋には心身ともに限界を感じ退部した。

高校に入学した時、「きれいな姿勢の丈夫な体になりたい」との一心で、鈍足でもできる弓道部に入部。弓道を始めると不思議なことに鉄棒や球技も徐々にできるようになり、インターハイにも出場し二段も取得した。

私が小学校に入学した時は、母は42歳だったが既に跛行していた。年々膝が悪化し、家事にも支障をきたすようになると、母は座ったまま大声で私に用事を言いつけるようになり、徐々に太り始めた。そのため、小学校4年生にもなると、家族の夕食作りや朝食の準備が毎日の仕事となり、日曜日は店で働く人達の分も含め、十数人前の昼食作りも私の仕事となった。

遊ぶ時間はほとんどなく、外に出ても遊びの輪に入れない私は、学校ではイジメられ、家では家事をひたすらこなすという陰鬱な日々を過ごしていた。中学に入ると母とは口もきかなくなり、高校卒業後は家から脱走するように看護学校に進学した。京都での寮生活は刺激がいっぱいで、身も心も食事作りからも解放された私は、中学生の頃からの憧れだったバトントワーリング部に入って青春を謳歌した。

Ⅱ. 痛みと鬱状態の中で出会った整体

大学病院就職後に始めたスキーで右膝の内側半月板を損傷し、次第に両膝が痛むようになり今も完治していない。第1子の産後から腰痛に襲われ、その後は3人の出産子育てで、次第に膝も腰も悪化していった。3人目の産後10年頃には、歩行も困難になるほどの激痛となり、整形外科を受診し腰椎7方向のX線撮影検査を受けたが、もらった診断は「骨はきれい。異常なし」だった。

また、右下肢の静脈瘤が酷く、血管外科で下肢の深在静脈シンチグラム検査を受けたところ、右の足首~鼠径部までの大静脈は全く写らず、左右の脚長や太さの差も大きく、「クリッぺル・ウェーバー症候群の疑い」と告げられた。「腰や大腿部の痛みの原因は血管外科で相談するように」と整形外科で言われ、血管外科では「整形外科で…」と言われ、どんどん精神的に落ち込んでいった。

「異常なし」と診断をもらった私の腰痛は、いろいろな体操をしても、いろいろ買い求めた腰痛グッズを試用しても一向に良くならず、悶々としていた。そんな時、新聞折り込みのチラシの「腰痛の原因は骨盤にある」という字が飛び込んできた。さっそくその勉強会に行った会場で聞いた骨盤と脊柱に関する講義は、私の目から鱗を何枚もはぎ取った。

講義の後、骨盤のゆがみを調整してもらったところ、3cmあった脚長差が数秒の施術で消え、2週間経った頃には全く腰痛知らずの体となっていた。たった数秒の施術で15年間悩んだ腰痛が消えるなんて…、骨盤や脊柱がゆがんで様々な症状が発生するなどとは、医学書・看護学書には全く書いてなかった。

図1 恥骨の段差の1例
図1 恥骨の段差の1例

あまりの面白さに魅了され、他の整体グループ講義も聞こうと行った先で、講師の先生は「女性の腰痛の重症者は、恥骨が一直線になっていなくて段差ができている(図1)。男性はそんなことはない。出産時には恥骨が開くが、ちゃんと一直線に閉じるまで、産婦人科の医者も助産婦も責任を持って診るべきなのに診ない。本当はその人たちがすべき仕事を我々がしないといけなくなっている」と話され、私は胸を刺されるほどの衝撃を受け、茫然となった。

Ⅲ. 体と心は繋がっている

私は大学病院勤務時代、産後に激しく精神的に落ち込む多くの高齢初産婦のケアに当たった。彼女達の多くは多種多様な不定愁訴を抱え、中でも排尿障害・脱肛・腰痛・恥骨部痛が強く、歩行困難をきたしていることが多かった。

私は学生時代の看護学概論でクライアントを「身体的・心理的・社会的な面から、総合的に見ることが大切である」と学び、就職してからもそれをより深める内容の、講演会や研修会に参加する機会を得た。それらの看護の基本と、自分自身の体の痛みや不調に悩んだ経験から考えて、「精神的落ち込みからの脱出を援助するには、まずは身体的な辛さを軽減することが大切では?」と考えるようになった。学生時代も働き始めてからも、自分自身や家族・友人・クライアントなど多くの人々の身体的苦痛軽減のため、筋肉や関節の動きなどを詳しく知りたい」との願望に駆られて勉学に励んでいた。

褥婦のマイナートラブルを軽減のためのケアをする中で、精神的に落ち込む人が減ったと感じた。このことを服部律子先生(当時 京都大学医療技術短期大学部 母性看護 助教授、現 岐阜県立看護大学教授)に話したところ、彼女はアンケート調査を実施し、その結果、産褥早期の疲労自覚症状の中の精神的症状を示す「注意集中の困難」は、腰腹部固定帯着用群の方がコントロール群よりも低値であり、有意差が認められた*1)。これにより、骨盤周囲の不快症状が精神面にも影響があることが示唆された。

Ⅳ. 退職・開業

私が実家を出た後、母はどんどん足腰が弱り、肥満・高血圧が悪化し、60歳を過ぎると脳血管障害らしき症状を次々と発症し、67歳で他界した。母と私の症状を対比してみると、私の方が母よりも5年ほど症状の進行が早く、私は次第に「62歳まで生きていられるのだろうか?」との不安に襲われるようになった。

と同時に、母の膝の痛みも肥満も、「産後にきちんと骨盤が整うまでケアされていれば、母も私もあんなに楽しくない人生を送らなくてもよかったのでは?」「女性の骨盤を何とかしなくてはいけない」と思うようになった。

体の辛さと心の軽さは強く繋がっていることに確信を持った私は、いっそう骨盤や腰痛について独学し、夜なべして今のトコちゃんベルトの原型を縫いあげた。「もっと勉強して、骨盤ケアの重要性を日本中の助産師に教えていきたい」「したいことをせずに死ぬわけにはいかない。骨盤ケアを私の一生の仕事にしよう!」と決意し、48歳で退職した。

カイロプラクティックの師匠に施術をしてもらったり、セルフケアに励むようになると、痛みや不調が年々消失し体が楽になった。妊婦を対象に整体の仕事を続ける中で、妊娠・分娩の異常と骨格の関係について次第に分かるようになると、仕事が面白くてたまらなくなった。助産学生時代からの疑問、つまり、腰痛の有無と安産の可否*2)に関しても少しずつ分かるようになり、安産に誘導するための知識と技術の普及の必要性を痛感した。そして、いろいろなセミナーを企画し、講師として整体師として多忙で楽しい毎日を送れるようになると、「人生で今が一番楽しい。幸せ」と、自然と笑顔になれるようになった。

Ⅴ. 辛い体、技術を身に着けられない若者の増加

図2 脊柱彎曲の有無と内臓の位置

図2 脊柱彎曲の有無と内臓の位置

図3 骨盤の分類

図3 骨盤の分類

セミナー講師をするようになって驚いたことは、受講者である助産師などのケアギバーのほとんどが「見たことを真似できない」という現実だった。実習が遅々として進まず、ゆっくり手足を動かしながら丁寧に説明しても、できる人はわずかである。私は料理も整体も「見て技を盗む」のが当たり前で、そうして技術を身に着けてきた。そのため、「私がこんなに一生懸命教えているのに、教えたやり方をせず、違ったやり方をするってどういうこと?」「受講料を払って勉強しに来ているのに、どうしてこんなにやる気がないのか?」と、情けなさと怒りで自分の感情を制しきれなくなることもしばしばあった。講師を続ける中で分かったことは、受講生の多くは「私の体より悪く、しかも、全身を動かした経験が少ない」ことと、脊柱のS字状彎曲が弱く(図2)、骨盤は幼児型(類人猿型)で(図3) *3)、腹直筋は離開し、解剖学・生理学で「正常」とされる領域から逸脱している人が大半だということである。そのため、腰は安定せず、四肢はねじれ(図4)、親指を外に出して握れず(図5)、全身の動きが悪い。腕っぷしは強いのに胴体の深層筋が弱く、ゆったりとした動きができないので、盆踊りもツイストも踊れない。そんな体では、診察や心地よいケアも提供できない。

図5	親指を握らないグーと握るグー

図5 親指を握らないグーと
握るグー

図4	ねじれていない肘とねじれている肘

図4 ねじれていない肘と
ねじれている肘

それぞれの受講生が技術を身に着けられない理由を理解し、それぞれに見合ったやり方で指導できるようになるのに10年以上を要した。今はセミナーでは、ツイスト・炭坑節から教え、さらに、手首・肘・肩の動きの悪さを改善するために、バトンの回し方を教えるようにしてからは(図6)、受講者の技術取得は格段にスムーズとなった。

図6 セミナー時の準備体操 バトン
図6 セミナー時の準備体操 バトン

セミナー受講者はまだ良い方で、整体施術を受けに来る女性はさらに大変な体の持ち主が多い。しかも、「スマホ依存者」が増えるに従って、長時間にわたって目も顔も動かさないため、後頭部~頸部~肩~背部~手に頑固な凝りが蓄積している人が年々増えている。同時に、だらしない姿勢で長時間、座り続けることにより、骨盤内のうっ血は強くなり、痔や排尿障害も悪化しがちとなる。妊婦だと胎盤機能は低下し*4)、胎児の姿勢も悪化し股関節脱臼などの整形外科疾患も増える*5)。産後は、スマホを持ち続けた手では赤ちゃんを上手く抱けず、授乳や子育てにはきわめて不向きな状態となっている。

後頭部~首の強い凝りは、迷走神経 (最大の副交感神経)の機能を低下させることが考えられる。交感神経優位となり、全身が戦闘的・興奮状態となり、イライラし、顔色は悪く表情は暗く硬くなる。それが夫婦ともにだと「夫婦喧嘩が絶えない」と嘆く。骨盤・首をはじめ全身のケアを行うと、全身が楽になり気分も和らぐ。顔色が良くなり笑顔に変わり、喧嘩ばかりしていた夫婦が、「夫婦喧嘩をしなくなった」と言う。家庭の平和のためにも、家族そろって全身をケアすることが大切だと思う。

Ⅵ. どのようにケアすればいいか?

図7 骨盤ケアの三原則
図7 骨盤ケアの三原則

妊娠中も妊娠する前も、歩行だけでなく体の柔軟性を高める運動(ダンス・エアロビクス・ヨガ・太極拳)などをして体を作ることが大切なのだが、パソコンやスマホにしがみついていては、心身ともに硬直・脆弱化は必至であろう。そこで、骨盤ケアの三原則に基づいて(図7)、体も心も短時間でふわっと軽くなるケア法をお伝えする。

1. 骨盤ケア…レッスンベルトで骨盤輪支持 (図8)

図8 『骨盤メンテバイブル』
図8 『骨盤メンテバイブル』

・強さ…伸縮部位は6~8cmがオススメ
・方向…快方向を知る
・位置…快位置を知る

2. 骨格改善体操(骨盤輪支持をして行う方が効果的)

図9 マフラー体操
図9 マフラー体操

・体操1…肘・肋骨挙上で内臓下垂と骨盤の緩みとゆがみを改善
・体操2…タオルマフラーを使った凝り緩め(図9)

Ⅶ. おわりに

66歳になった今も整体を生業として楽しく暮らせる体の基礎は、高校時代の弓道と看護学生時代のバトントワーリングに作られ、整体によってメンテナンスし続けているからだと思う。子育てが一段落してから現在まで、体力低下の予防と楽しみを兼ねて踊りや武道をするように心がけている。おかげで年々元気になっている気がする。私の体験や仕事がメンタルサポートを必要とする人々に役立つことを願うばかりである。


参考文献

  • 服部律子他.産褥早期における腰腹部固定帯の効用.母性衛生.1999/6,Vol.40,No.2,P278-P282
  • 柚木祥三郎,川上博.新撰産科学.金原書店,1971,第4版
  • 鳴本敬一郎(浜松医科大学)他.過去50年間における日本人妊婦骨盤形態の変化と周産期予後の検討.第65回日本産科婦人科学会学術講演会,2013
  • 金山尚裕.日本助産師会関東甲信越静岡ブロック研修会資料集,2005
  • 鈴木茂夫.単臀位と股関節脱臼.臨床整形外科.1980,第15巻10号,P939-946